第10話 呪い
私は母親が嫌い。中学生の私がそう言うと、あ、反抗期ね、とにやにやしながら冷やかす人もいる。けれど、そういうものとは全く別。
15年生きてきて、ここまで人を嫌いになれるものか、そう思うくらいに、私自身が驚いている。
本当の母親は早くに亡くなり、ずっとお父さんと二人暮らしをしていた。だから、お父さんが女性を連れてきたときは少し悲しい気分になった。でももう、私も子供じゃないし、恋愛がどういうものかもなんとなくわかる年齢だから、ここまで育ててくれたお父さんにわがままは言わない。だけど、見る目が全くない。
未成年の私の前で、例えば私が食事中でもいつでも平気でたばこを吸うし、自分の布団すらひかない、たたまない。口を開けばたばこのにおいをまき散らしながら人の悪口、不平不満ばかり。嫌いなところを挙げるときりがない。細かいけれど穏やかで優しいお父さんとは全く違う。別にいじめとか嫌がらせとかはないけど、無理なものは無理。
そんな感じだったから、私はいらいらを露骨に母親に出してメッセージを出していたつもりだけど、向こうは鈍いのか、面の皮が厚いのか、平気な顔をしていた。もちろん、母親も内心では私のことを快くは思っていなかったに違いない。
私のいらいらはお父さんにも向けてしまったけれど、すぐに冷静になったら謝った。
ある日、珍しくお酒を飲んでいない母親が私の布団を整えていた。嫌な予感がした。私の視線に気づくと、作り笑いを浮かべて「おやすみ」と出て行った。何か、枕が気になって、持ち上げてみた。そこには小さな紙があって、赤い字で書かれていたのが「Mallacht,Tsubasa」
意味はわからなかったけど、とにかく寒気がして、母親の布団の下にこっそり入れた。どうしてそうしたのか、私にもよくわからない。私の行動がばれても別にいい、そう思えた。
真夜中、母親の叫び声がして目が覚めた。母親は死んでいた。私が生まれてはじめて聞いた断末魔。あれは呪いの呪文だったのだと思った。呪いは人に見られると効果がなくなって、逆に呪いをかけた人に跳ね返ると聞いたことがある。私はオカルトに興味があるわけではないけれど、でも、開けてはいけない扉を開いてしまったのだと気付いた。
お父さんは狂ったようにわんわん泣いた。私はあの人が死んで、少し嬉しかった。でも、そう思った自分が嫌い。
「Mallacht,Tsubasa」
前見たときよりも、赤い文字がさらに濃くなったような気がする。見覚えのある筆跡のような気がする。小さくて、細やかな字。この紙をこっそり眺めていると、お父さんがふらふらとやってきて、紙に気づいた。どんどん顔が青くなっていくのが分かった。青ざめた顔で私を見つめていた。
ああ、そうか、本当に私を殺そうとしたのは、誰だかわかった。
呪いが正しい方法だったのか、効果があったのか、そもそもそんなものが存在するのか、確信はないけれど、呪いはしてはいけないよ。真実はどうであれ、母親は死に、父は破滅し、私は呪われたまま生きることになるのだから。
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