第7話 卒業アルバム
成人式を前に、小学校の同窓会が企画された。私立の中学受験をした私にとっては、8年ぶりとなる再会。正直・・・大半の人とは会いたいとは思わない。もう顔も変わってしまったし、性格も雰囲気も変わってしまったのだろう。だけど、そういう人間関係を残しておけば、今後の人生に良い影響を与えるような出会いがあるかもしれないから、と自分に言い聞かせて出席の返事をした。
出席したのは良いものの、やはり思った通り、みんな地元の公立の中学に通っていたから、中学受験をした私とは壁があった。というか、中学受験をした人は私以外来ていない。
気まずそうにしていたのがわかったのか、かつて仲が良かった人が声をかけてくれた。その人は、企画してくれた幹事の一人で、話題のためにわざわざ小学校の卒業アルバムを持ってきていた。
「懐かしい!」
卒業アルバムを中心に輪ができて、とりあえず私も同窓会に参加している感じになれた。小学校の頃のことを何とか思い出し、ああ、あんなこともあったね、と相槌を打っていた。
いろいろな集合写真を見ていると、あれ?と気づいたことがあり、その卒業アルバムを持ってきた人に尋ねた。
「この子、誰だっけ」
ほとんどの集合写真に目立つ位置にいる男の子。なのに、名前が全くでてこない。本当にどの写真にも写っているから、クラスのムードメーカーだったに違いないのだが・・・
「あれ、誰だっけ」
幹事も覚えていないことにほっとしつつ、違和感が残る。確か、転校した生徒なんかもいなかったはずだし、亡くなった子もいないはず。そんなインパクトのある出来事は私たちの代はなかった、と思う。あれば覚えている。同窓会を企画した人も知らない彼は誰なのか。周りにいる人たちも覚えていない、と言う。
「個人写真のところ見ればわかるんじゃないの」
誰かの声で、ああ、そうだ、と思って個人写真のページのそれぞれの顔をじっと見てみる。みんな変わったな、と思う。その当時は怖いな、と思っていた人も、今見ると小学生のかわいい顔をしている。写真というのは良いものだけど、残酷だな、とも思う。こうして時間が経っても、忘れたはずのきれいな記憶、場合によっては暗い記憶もみんな残ってしまう。
「やっぱりいないね」
誰に聞いてもわからない、集合写真に載っているだけの男の子。心霊写真じゃないよね。こんな目立つところに・・・小学校を卒業した時、このアルバムを見て私は何を思ったのだろうか。
同窓会の場ではその話はあまり深まらなかった。ただ、私はどうにも引っかかったままだ。私らしくもないのだが、ほとんど連絡を取ってなかった小学校時代の友人に電話してみた。中学受験をして、中学時代に何回か会ったことはある。彼女は同窓会には顔を出さなかった。
「久しぶりだね。どうしたの、元気してた?」
久しぶりに会ったのに彼女は普通に接してくれる。
「この写真なんだけど」
私は部屋を大掃除して、小学校時代の写真を見つけた。やはりそこにも、その男の子が写っていた。ちなみに卒業アルバムはどこかにしまいこんでしまったらしく、見つからなかった。
「懐かしい写真持っていたんだね」
「同窓会に行って、この子の写真を見たけれど、誰も覚えていなかったんだ」
彼女は暗い顔を見せた。
「みんな覚えていると思うよ、ただ、忘れたいから触れなかっただけでしょ、それか、記憶にふたをしたのかも」
私は本当に覚えていない、思い出せない。
「小六のときに教師に目をつけられてさ、この子死んじゃったんだよ、覚えてないの」
「え」
「私はあなたが、あなたたちが何も覚えていないほうが怖いよ。そんな子が卒業アルバムに載っているのも皮肉な感じがする」
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