第2話 離れる

高校生になり、自分のスマホを買ってもらえてから、自由にネットサーフィンできるようになったのが楽しい。その中でも最近のマイブームとしては、オカルトサイトをよく検索している。オカルトサイトなんてくだらない、そう思っていたけれど、まあ結構面白い。いわゆる「都市伝説」とか、ありえないでしょと思いつつ、でもありえるかもしれない、そういう信じられない世界が存在するかも、そう思わせる魅力がある。だからこそ、ネット上の多くの情報にも埋もれず、こうして人の目につく場所にあるのだろう。

【実践禁止】とか【閲覧注意】とか書いてあると開いてしまう。サイトの閲覧数を上げるタイトルの付け方として挙がっていたのを見たことがあるが、自分自身がそういうお客さんの一人だ。気を付けることはサイトの記事の内容ではなくて、そこにコンピューターウイルスが仕込まれていないか、だったりする。

そんなサイトの中で、気になったのが、「【実践禁止】幽体離脱の方法」みたいなタイトルのページだった。幽体離脱って眠りが浅いときの夢で、割と科学で説明がつく部分がある印象がある。オカルトのいうところの、魂が傷つく、とか帰って来られなくなる、なんてことはないだろう。であれば、挑戦してみたい。

ろうそくが必要なものであるとか、準備が面倒なものは却下。深夜3時にやりましょう、みたいなのも却下。起きていられない。まずは全身の力を抜く、というのがよく書かれているが、そもそもそれも難しい。どうやったら全身の力が抜けるんだ・・・

と文句ばっかり心の中でつぶやきつつ、見つけた方法がスマホを使うもの。これが簡単で、布団の上で大の字に寝てリラックスしながら、目の前にスマホを掲げて、画面をじっと見るだけ。スマホの画面と言っても、スイッチを入れず、真っ暗な画面をじっと見続ける。真っ暗な画面には自分の顔が映るわけだが、自分とずっと目を合わせていなければならない。

実際に自分と目を合わせていると、別に自分の顔なのに、とても恐ろしい気持ちになる。人とじっと目を合わせること自体、普段は絶対しない不自然なことだけれど、スマホの画面に映る自分と目を合わせるだけのことが、こんなに得体の知れない恐怖を感じるとは。ついつい、目をそらしてしまう。この方法を考えた人は、きっとこのことに気づいたから、オカルト的な何かに結びつけようとしたんだろう。

自分は面倒くさがりだし、結構ドライなほうだという自負はあるのだけれど、変なところで負けず嫌いであきらめが悪かったりする。今回もそうだ。この得体のしれない恐怖に耐えて、じっと見つめてやろうと思った。オカルト的に言うところの、帰ってくることができない幽体離脱なんて信じていないけれど、幽体離脱ができたら面白いと思う。

じっと見つめていると、スマホを掲げているから腕が地味に疲れてくる。全身力を抜く、という幽体離脱の方法とは少し違うんだな、と思う。疲れた腕が震えているのか、画面が少し揺れて、映っている自分の顔も少し揺れるのがまた少し怖い。

どれほど経ったか、体感では1時間か2時間くらいだろうか、もう疲れたし、見つめているせいで瞬きの回数が減って目も乾くし、やめようかと思ったその時、スマホの中の自分が目をつぶったのだ。寝ぼけているのか、いや、確実に目をつぶった。自分と同じ動きしかしないはずなのだ。目をつぶるのが見えるはずがないのだ。オカルトをありえないと馬鹿にしつつ、半ば好奇心で試したことを激しく後悔していた。

スマホの奥で、自分が嫌な笑みを浮かべた。こんな顔は、自分にはできない。自分ではない。

スマホの画面を見えないように下に向けたまま枕のそばにおいて、布団にくるまってそのまま目を閉じた。怖さで心臓の鼓動が早い。それなのに、すっと眠りに落ちた。

気が付くと、朝を迎えていたようだ。目の前には、ベッドの上で横たわる自分の姿があった。幽体離脱に成功したのか。自分の部屋は静まりかえっている。

外の明るさを見ると、もうそろそろ起きて学校に行かないといけない時間だ。・・・どうやって戻ればいいんだろう。自分の体に近づきたいが、動き方がわからない。

するとベッドの上の自分が目を開けた。こちらには目もくれず、もう一人の自分は何事もないように部屋を出ていく。だんだんと自分の感覚が薄くなっていくのを感じた。視界がぼやける。あのスマホの中で笑っていた自分に乗っ取られて、今、自分自身の魂は消えていくのだろうか。

ああ、なるほど、これは夢か。目覚めるということか。この嫌な夢が終わるのだろうか。いったい、どこから夢だったんだろう・・・


いつもの朝、食卓は何も違和感がなく、いつもどおり両親とぼくがいる。ぼくは誰か?どっちのぼくか?そんな馬鹿げた問いは意味がない。ぼくはぼくしかいないのだから。

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