第4話
映画館に着くと、頭上に広がるデカデカとした、全米が泣いた! のキャッチコピーが目に止まる。最近話題の恋愛映画だ。
太郎は普段、恋愛映画などはまったく観ない。それでも先程、咄嗟にこの映画が口に出たのは、テレビやネットで良く話題になっていたからだろう。
太郎からすれば恋愛映画に興味は無いが、女性と観る映画と言えば恋愛映画と言う、一般図式は理解している。
願わくば彼女を楽しませてくれる映画であって欲しいと、無駄に上から目線で考えながらカウンターに並ぶ。
「彩さん、君の肝臓を食べたいでいいですか?」
「はい、大丈夫です! ちょうど気になっていたんです」
「それはよかった! 僕も観たかったんですよ」
太郎は息を吸うように嘘をつく。もちろん悪気などない、ただ彼女とスムーズに話したいだけの一心だ。
「次の方どうぞ!」
店員に呼ばれ二人ともカウンターに足を運ぶ。彩音が財布を握りしめているのはお金を出す現れなのだろう。
そんな律儀な姿に太郎は胸をドキドキさせながら店員に対応する。
「タイトルはどれに致しますか?」
「君の肝臓を食べたい二人お願いします」
「かしこまりました。ただ今混雑しておりまして、席が端のこの二席になりますが、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫です」
「では学生証など御座いましたら提示お願いします」
太郎は新品の学生証を財布から取り出してカウンターに乗せる。しかし彩音が学生証を取り出す気配が一向に無く、太郎と店員の視線は彩音に向く。
「私は無いので大丈夫です」
彩音はどうやら普段から学生証を持ち歩かないようだ。今日たまたま映画を観ることになったのだから無理もない話だ。
「では3800円になります」
太郎と彩音はほぼ同時に1万円札を店員に突きつける。店員は困り顔を浮かべて太郎のお札を受け取り会計を始める。
「太郎君! 話が違います!」
「彩さん、こんな時ぐらい出させてください。これでも男なんですから」
「それとこれでは話が別です!」
太郎はお釣りを受け取り、カウンターからはけると、彩音は頬をリスのように膨らませ怒っている。その柔らかそうな頬の魅力に吸い寄せられたのか、太郎は人差し指でその頬を押す。
ふにゃと感情が伝わり我に帰る。
「あ」
「太郎君、全然反省してませんね」
「ごめんなさい! あまりにかわい……」
太郎は言葉を咄嗟に止め、自分がまた口走りそうになった事で恥ずかしさのあまり、顔が熱くなってくる。
「もう、仕方ないなぁ」
彩音は少し恥ずかしそうにそっぽを向きながら、飲み物を買いましょうと提案してきた。
太郎はそれに従い飲み物を買う。会計はご機嫌斜めの彩音に払ってもらい事なきを得た。
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