第6話

 村長さんとおかあさんは、りんごと卵と牛乳の入ったバケツともみがらの袋を分けて持って、畑を通りかかりました。

 畑では、お百姓さんがお芋を収穫していました。


「やあ、畑を持ったお百姓さん、今日もご精が出ますな」


「これは、村長さん、こんにちは。おや、きこりの後家さんも、こんにちは。

 この間は大変なことでしたな。どうですか、もう、落ち着かれましたかな?」


 お百姓さんは腰を伸ばしてあいさつを返しました。


「お百姓さん、今年は野菜の育ちは、いかがですかな?」


「まあまあですわいな。でも、それで十分です。

 欲を言えば、今年は雨が多くて土の栄養がだいぶん流されてしまいましてな。

 もう少し、土が肥えていればよかったんじゃが」


「そこでです」


 村長さんはここぞとばかり言って、もみがらの袋を開けました。


「これを使ってみてはどうですかな?」


「これは? もみがらですな。はて? これをどう使うんですかいな?」


「このままでは役には立ちませんがね。上手く焼くと肥料になるんです。

 畑の良い養分になって、野菜が大きくおいしく育ちますよ」


「ほう、そうなんですかい。それはいいことを聞きましたな。

 さすが村長さんは物知りじゃ。いや、ありがたい」


「それはお役にたててなによりです。

 それで、実はこのもみがらで、野菜を少しばかり分けてほしいのですが」


「ああ、そんなことはお安いご用で」


 お百姓さんは気軽に言って、野菜をたくさん分けてくれました。


 そこで村長さんとおかあさんは、村のお肉屋さんへ寄ると、いくらかの野菜とお肉を交換してもらうことができました。


 そして二人は最後にもう一度、初めにもみがらをくれた、田んぼを持っているお百姓さんをたずねました。


「やあ、村長さんにきこりの後家さん、これは大変な荷物ですな」


 お百姓さんは、あれこれ荷物を抱えた二人を見て目を丸くしました。


「いや、みんなあなたのおかげですよ」


 村長さんが言うと、お百姓さんは、


「はて? わしの? わしが何かしましたかいな?」


と、首をかしげました。


「みなさん喜んで、もみがらと交換してくださったんですよ」


「へ? もみがらと? それはいかに村長さんのお言葉でも、にわかには信じられませんがな」


「いえ、もみがらも使い方ひとつで役に立つのです。

 お百姓さんの分も、残しておきましたよ」


「いや、わしは自分でも持て余して、貰ってもらったんじゃが……」


「いえいえ、これを上手く焼いて灰にして田んぼにまくと、よい肥料になるんですよ」


「ほう? そうなのかね? そんなことは初めて聞いた」


「ですからお百姓さんも、これを使ってください」


 村長さんは残りのもみがらの入った袋をお百姓さんに渡しました。


「これはこれは、もみがらまで役に立つようにしてくださるなんて、嬉しいですな。わしにとっちゃ、もみがらだって、お米と同じようにかわいいもんなんですわいな。大切なお米を守ってくれたものですからなあ。

 いや、ありがたい、ありがたい」


 お百姓さんは喜んで、お米をどっさりくれました。



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