第5話
そこでふたりは、にわとりをたくさん飼って卵を集めている家にやってきました。
「やあ、こんにちは。ご精が出ますな」
「これは村長さん、こんにちは。きこりの後家さんも、ご一緒で。
……ご主人はお気の毒なことでしたなあ。お優しい、いい方だったのに」
卵屋さんのご主人も、おかあさんを労わってくれました。
「にわとりの様子はどうですかな?」
村長さんが尋ねると、卵屋さんが答えました。
「ええ、ええ、みんなよく卵を産んでくれて、ありがたいことです。
ただ、卵を運ぶには、いつも難儀をしていましてな」
卵屋さんは大きなかごいっぱいの卵を、そろそろと運んでいました。
「そこで、いい物を持って来たんだよ」
村長さんは、袋に詰められたもみがらを見せました。
「これは、もみがらですな。はて、いったい、これが何の役に立つのやら」
「そこです、そこです」
村長さんは勢い込んで続けました。
「平たい大きな箱にこのもみがらを詰めて、そこに卵をひとつひとつ並べて運ぶのですよ。
箱を深めにこしらえて、箱どうしを重ねられるように、周りに溝をつけるんです。
そうすれば、一度にたくさんの卵を、壊さず運ぶことができますよ」
「なあるほど!」
卵屋さんは、ぽんとひとつ手を叩きました。
「それは全く大した考えだ。いや、さすがに村長さんは違いますな」
「そこで、ひとつ頼みたいんだが、このもみがらを使ってもらう代わりに、卵を幾つか分けてくださらんか?」
「ええ、ええ、お安いご用ですよ。こんなにいいことを教えてもらったんですから」
卵屋さんは喜んで、手つきかごいっぱいの卵をくれました。
* * *
「まあ、村長さん、あっという間にもみがらがりんごと卵になりましたね」
おかあさんは驚いて言いました。
「ふふ、驚くのは早いよ。まだまだこれからだ」
村長さんはそう言って、今度は牛を飼っている男の家へ、おかあさんを連れて行きました。
「村長さん、こんにちは」
牛飼いは牛にえさをやっていました。
「きこりの後家さんも、こんにちは。
…先日は、とんだことでしたなあ。
坊やはどうしていますかな?
おとうちゃんを恋しがって、泣いてはいませんかな?」
牛飼いは、父親を突然亡くした坊やのことを案じてくれていました。
「ええ、ありがとうございます。
本当は寂しいんでしょうけれど、頑張って元気にしてくれているんですよ」
おかあさんもお礼を言いました。
「そうだねえ。
おとうちゃんがいなくなったもんだから、今度は坊やがおかあちゃんを守らなきゃいけないもんな」
牛飼いはそう言って、目をしばたたきました。
三人はちょっとの間、黙って涙ぐみました。
「いやいや、あんな小さな坊やがしっかりしているんだから、わしらがいつまでもめそめそしているわけにはいきませんぞ」
村長さんが急に大きな声を出しました。
「ところで、牛は元気にしているかね?」
「ええ、元気で乳もよく出ます。
しかし、母牛はいいんだが、この春生まれた子牛が、まだ、しっかりしなくてね。
それに、このところ、急に寒くなったもんだから……」
「そこでだ。今日はいいものを持って来たんだよ」
村長さんは、袋を開けてもみがらを見せました。
「これを牛舎に敷くといい。寒くても、子牛が風邪をひかないように」
「これをですかい?」
牛飼いは不思議そうに、袋に手を突っ込んでみました。
「なあるほど、これはぬくいや。
これを敷けば、牛もあったまるってこってすね。
これなら、この冬は子牛も大丈夫だ。やあ、ありがたい」
牛飼いは嬉しそうに言いました。
そこで、村長さんも牛飼いに頼みました。
「それで相談なんだが、このもみがらをあげる代わりに牛乳を少しわけてほしいんだ」
「ええ、ええ、こんなに牛のことを考えてくださるんですから、それくらい、お安いご用ですよ」
牛飼いは喜んで、牛乳を大きなバケツになみなみとくれました。
おかあさんが頼んだので、捨てようとしていた牛乳の上に浮いた脂肪もくれました。
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