会議4

北条の発言が会議室内を制した後、その空気を断ち切ったのは榎本塔子だった。

「聡太郎様を滝弁天に連れて行く可能性が高いのは年男が組織した結社のメンバーだと考えますが、その危険はどうです?」

さすがの彼女もチーフの発言の威圧に割って入った緊張のためか、ミディアムヘアを弄った指が少し震えている。

榎本は小柄な細身の美人で、物怖じしない発言と行動力でチームのムードメーカー的存在でもある。


この質問には上杉が答える。

「年男の結社は別のチームが監視しているところだ、ただし年男は結社の構成員に自分の素性を明かしていない、なので結社の残党は聡太郎のことを知らないと考えていい」上杉は榎本に答えながら、全員が自分の説明を理解したか確認するため円卓を見渡すと、長身でオールバックの手足が異様に長い男と目が合う、小暮だ。


これまた物怖じしない小暮は上杉と目を合わせたまま「日下が滝弁天に聡太郎様を連れて行ってしまう可能性は?」と質問した。

小暮の質問に、上杉と中島以外全員が虚を突かれた顔をしたが、直様そのことを失念していたことに気づく。

小暮の懸念を最初から理解していた中島が空かさず答えた。

「問題はそこだな、今回も日下には見鬼の力を発揮してもらうため、余計な先入観となる情報『ショゴス』等に関する知識は入れていない」

「何時もなら彼女の忠誠心はミッション達成に貢献するが、今回はその忠誠心ゆえのリスクがある」


小暮が額から髪を撫でつけながら答える。

「日下はもちろん聡太郎様を協会の重要人物として扱うだろうからな、そもそも日下に聡太郎様が総裁の御孫と伝える必要はあったのか?」

北条チーフは先程の威厳ある態度を和らげて答える。

「仮に伝えなくても日下なら自分が家政婦として召し抱えられた以上、要人の警護を伴っていることは容易に想像するだろう、なら伝えなくても伝えたとしても差異はない、結局ショゴスのことは伝えないのだから」


上杉がまとめる。

「今回の監視警護でも日下の能力『見える力』は余計な雑念や先入観が命取りになる場合があるためショゴスについて詳細は伝えていない、見鬼に必要な肌感や直感に素直に従う感性を損なうことがないように各位注意してもらう」

「聡太郎を滝弁天に近づけてはならない、日下と聡太郎が滝弁天に近づく気配には細心の注意を払い監視に従事すること」


そこから1時間程、監視方法や連絡手段、人員配置、他業務とのスケジュールの摺り合わせなど意見交換がなされた。

細かな調整は北条に一任され、会議は解散となる。

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