会議2

「3月6日、月曜日より山村聡太郎様の自宅に警護要員の日下美由紀を家政婦として配置する、監視手段や基準、連絡方法や取次役の人員配置は北条チーフに一任したい」

中島サブリーダーが帰国する山村聡太郎の対応について方針を述べる。


北条チーフは「チームの意思統一ため、上杉リーダーの見解を伺いたい」と発言。


「もっともだ、では私の知っていることと、その見解を説明しよう」

上杉は右肘をテーブルに乗せ前のめりの姿勢になり、垂れたロングヘアを左手で払いのける。

前のめりになると彼女の巨乳がテーブルに押し潰される形となって、男性陣たちが目のやり場に困るのを上杉も知っている。

「山村聡太郎の監視警護に必要な情報の共有化を図り、質問や意見交換を今日の会議の議題とする」


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まずは山村聡太郎の調書を要約する。


1979年の5月、山村年男という男が協会の総裁チャールズ ・オーガスト・フォードの邸宅を訪ね門下に入る。


それから3年、チャールズは年男に魔術を授ける。その後年男はチャールズの養女であり上杉の姉であるアリスを連れて日本へ帰国。


帰国後、年男とアリスは結婚。

1984年10月28日に聡太郎が誕生する。

1996年9月24日、3人が住む近所の丘陵地の森林でアリスが暴行されたと、聡太郎が母親の知り合いに連絡する。

この知り合いは協会員であり直ちに事件は協会の管理下に入る。


聡太郎の父である年男は幼少期より、外側の神の一柱であるナイアーラトテップの神託を授かる神子であった。彼は常にその神意に従い背くことなく生きてきた。

年男はナイアーラトテップの神託に従い、子を成しその子を指定された霊場『滝弁天』に連れて行く。

神託で子は『適合者としてショゴスを呼び出す触媒となる』と告げられていた。


年男は自分が、呼び出されたショゴスを使役する使命をナイアーラトテップから託されていると信じていたようだが、それは彼の思い込みに過ぎなかったようだ。


年男やアリスが聡太郎の魔術的資質や外宇宙の影響に気づけなかったことも、年男の思い込みが要因の1つと考えられる。

年男にしてみれば適合者は生贄の役割くらいにしか使い道がないと思えたのだ。


年男はその思い込みから独自に結社を組織していった、彼はそのことを協会には秘密にしていたが協会は結社の全貌を把握していた。

年男は自分が神に選ばれた者だと説き、信者を獲得して結社の構成員にした。


年男の真意は分からないが、何れナイアーラトテップの代理としてショゴスを使役し地上の王に君臨しようと考えていたのかもしれない。


しかしその夢想は簡単に潰えた。

聡太郎の話では恐らく年男は、ショゴスに喰い殺された。

また聡太郎によれば、ショゴスは年男やアリスには見えていなかったという。見えていた聡太郎は見鬼だったことが、その後に協会によって確認された。


また、聡太郎は1995年8月に肝試しでプラネテスを見たと証言している。遭遇したのは聡太郎を含めて3人、他2人については追跡調査が完了している。

遭遇した墓所は滝弁天の入口に当たる場所であり、プラネテスの出現は滝弁天との関係が考えられる。

崎原市には妖怪の民間伝承が残っている、これらもプラネテスとの関連が濃厚だと協会では考えている。

プラネテスの出現が聡太郎に起因しているかは現段階では不明だが、上杉はプラネテス召喚や支配が可能なため、このクリーチャーの対処ができる。

これは上杉チームに、この任務が当てられた理由の一つだと考えてよい。


上杉の話しは総裁の見解に移る。

「総裁の見解では、聡太郎はナイアーラトテップが神託で示した霊場にて『適合者の魔術的特性』によって召喚したショゴスを同時に支配したが、本人にその自覚がなく命令が出せなかった」

「なのでショゴスは深層意識の『抑圧された聡太郎の欲望』を命令コードとして解釈したのではないかと推測されている」

「聡太郎は外見や身体的には何ら普通の人間と変わらないが、適合者として何らかの魔術的特性が備わっていることは確かだ」

「聡太郎は事件後に、チャールズ総裁の下で魔術を習得したが、魔術を伝授される前は禁断の知識に対しての理解は御粗末なものだった」

「知識や魔術の習得については其れなりに優秀だったようだが、こと招来、接触、召喚の魔術については基本的なことが理解ができず習得できなかったという」

「総裁は適合者の魔術的特性が、魔術を必要とせずにショゴスを召喚支配できる技であり、その反作用として魔術的な召喚が制限されるのではないかと推測されている」

「またショゴス召喚支配には、滝弁天という霊場の力が必要であり、次に滝弁天で聡太郎がショゴスを召喚支配した場合、今の彼なら自覚的にショゴスへ命令を下せると総裁は考えている」

「ただ、総裁は自らの見解を聡太郎に明らかにしていない」


これらを踏まえた上杉の見解は「私は聡太郎が1996年9月24日の時点で、自覚的にショゴスを呼び出し操り、邪魔な父親を殺し、美しい母親を犯したと考えている」


だから「今回の任務は監視が主であり、警護は付随発生するものである」

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