プラネテス・レポート【適合者シリーズ3】

東江とーゆ

会議1

2000年2月28日、月曜日


円卓の会議室には、リーダーのアリッサ・オードリー上杉を上座に左から時計回りで、中島恭平、舎人史恵、比留間竜、榎本塔子、小暮雄高、北条誉と並び座っている。


中島はサブリーダーで、北条はチーフだ。

本来ならば、2つの役職は同格扱いだが会議の内容によって席次は変える。


会議が、トップダウンの内容なら上座の左は中島サブリーダー、ボトムアップの内容なら上座の左は北条チーフとなる。


つまり今回の会議は、基本トップダウンの内容になっている。


中島の副官的立場に舎人がいて、北条には小暮がいる。

後の2人は比留間は中島、榎本は北条の下で動くことが多いが別に明確な配置はなく、それは舎人や小暮についても同じだ。


これは協会所属の上杉チームによる会議だ。

協会は秘密裏に活動している『外の神々の情報の採取、調査、検証、管理、等を通じて秘匿を目的とする団体』である。

その情報は人類が知るべきではない知識であり、それを知ることは、危険なクリーチャーとの遭遇、破滅をもたらす魔術や呪詛に晒され、人として正気を保つことを困難にする。


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「山村聡太郎の調書によれば、彼が過去に崎原で見たクリーチャーはショゴスとプラネテスだ」

上杉がクリーチャーの名前を会議冒頭から切り出したことで、会議室の空気は緊張を増し参加者の顔は更に引き締まる。


「日下美由紀を家政婦として山村宅に配置する」


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日下は見鬼という『人ならざる不可視の存在』を可視化できる能力者である。


日下にとってこの能力は生まれながらの体質だが、協会に拾われてからは能力に振り回されない術も体得している。つまり見る前に存在を察知する技術だ。


日下は、路頭に迷っていた彼女を拾った協会に深い恩義を感じている、それは彼女の強い忠誠または狂信の土台となった。


見鬼は産まれながらの資質として保有する者と、怪奇的な現象を経験して開眼させた者と2種類に分かれる。

もちろん協会内には日下以外の見鬼は存在しているが、上杉チームでは日下美由紀が唯一の見鬼能力保有者である。


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北条チーフからの意見具申。

「聡太郎様の警護ならば日下では不十分ですし、また聡太郎様も見鬼だと伺っております」


北条の懸念は尤もだ。

チーム唯一の見鬼を特定の配置で固定してしまえば、チームの活動は制限される。

しかも聡太郎自身が見鬼なのだから、不可視の存在からの危険回避に必ずしも日下が必要とはいえない。


しかし「日下配置の目的は警護と、監視だ」上杉が監視という言葉の語気を強める。


日下は能力保有者とはいえ協会にとっては駒の1つに過ぎない、見鬼は希少だがまったく補充が不可能な人材という訳ではない。

否、協会員なら逸材でも幹部でも協会のために犠牲になる覚悟が必要だ。

それは総裁とて同じだ。

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