22.夢、再び

 またあの廃墟だった。二本の間に、裸のりずが両腕と両足を鎖で繋がれている。少女の肢体は薄暗い闇の中で、相変わらずの美しさを放っていた。


 だがこの間の夢と違って、彼女との距離が少し遠い。どういうことだ?と思いながら、足を進めていく。


 ふと見ると、手にはこの間の「夢」で見たナイフが握られていた。そうか、と俺は気づいた。


 これは、犯人の目線なのだ。


 俺、が体験させられている男が近づいていくと、りずの表情が見えた。彼女は、頬を染めて目を潤ませてこちらを見つめていた。それは、恍惚の表情と言ってもよいものだった。


 なんだこれは、と俺は思った。激しい違和感が込み上げる。拉致されて繋がれながら悦んでいるなどと、そんな馬鹿なことがあるものか。それを、犯人は自分に都合よく解釈していたのだろうか。


 だが「俺」の気持ちとは裏腹に、体はその男の動作に忠実に動いていく。手に持ったナイフを、彼女の左の乳房に軽く触れさせた。


「切って」


 彼女がそう囁く声が聞こえた。


 ような気がした。勘違いかもしれない。


 けれど、その声に導かれるように、この手はそっとナイフを動かしていた。りずは痛みを耐えるような、吐息のような声を小さく漏らす。


 胸の傷口からは、彼女の心の痛みを具現化したような、赤い血が滴り始める。涙の雫のようだ、とも感じた。それを拭ってやるように、そっと舌で掬ってやった。りずは涙を溜めた瞳で微笑んだ。


「ありがとう」


 儚い笑みを浮かべて、彼女が言った。


 その瞬間、悟った。違和感の正体を。


 そして、


「じゃあ、お願い」


 小さな、けれど穏やかな声で囁き、彼女は静かに目を閉じる。


 俺はその言葉を聞くと、に向かって斧を振り上げた。


 ポケットからタンポポの葉が、一枚はらりと地面に落ちた。

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