23.真実。

「そういう、ことだったのか…」


 夢から醒めて、俺は頭を抱えてうずくまった。最後の光景。


 タンポポなどを千切って持ち歩いている奴なんて、俺の知る限りではしかいなかった。


 それは、紛れもなく。




「ああああ!」


 自分の声とは思えないような叫び声が、紛れもなく自らから発せられた。絞り出すように、喉を焼きながらそれは俺の口から出ていた。


「リズ…リズ…!」


 震えが止まらない。

 認めたくない。受け入れたくない。


 けれど、彼女の最後の微笑みが、頭に、網膜にしっかりと焼き付いていた。


「なんでだよ…」


 前髪を掻き毟る。ナイフを走らせた時の手の感覚が、肌に生々しく残っていた。右手が痙攣するようにさらにガタガタと動く。


 「どうして、あんな…」


 あれは犯人の目線の夢なのだと思っていた。ある意味それは間違っていない。だが。


 脳に少しずつ、走馬灯のように記憶が流れ込んでくる。


 そうだ、あの時、俺は。


 絶望的な気持ちのまま、斧を手渡された。誰かが放った彼女を罵る言葉が、耳障りも悪く鼓膜にこびり付いている。


 どうにかしたいと、今ならまだ間に合うのではないかと、思いたかった。


 だが、実際は。

 現実には、俺の身体は。


 頭がガンガンする。

 現在の自分と、記憶の中の思いが脳内でまだらに混ざり合っていく。どろどろに溶けたインクのように、それはこの身体を黒く浸食していくようだった。

 

 


 その疑問が頭の中をこだまする。


 二つの記憶と感情が激しく交差して、自分の輪郭が少しずつ揺らいでいくようだった。


 だが、はっきりした現実が一つだけある。

 どんなに認めたくなくても、それは変えることの出来ない物として、重く背負っていくしかない物だ。


 彼女に手を下したのは、自分だった


 その時の感覚と、絶望にも似た感情がこの胸に残っている。


 紛れもない、これが事実だった。

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