11.「しらたま」

 ピロン


 再び通知音が鳴る。メッセージの画面に、新たな吹き出しが映し出される。


「いま おまめを さんこ たべたのですが」


 はい?と俺は思った。

話とは、「夢」のことではないのか?豆?


 たしかに少年の言う通り、このハムスターはスマホを扱えている。けれど、会話の内容はやはりネズミのそれだったか、と彼は失望した。だが、


 ピロン


「たべながら あなたに かって いただいていた ときのことを おもいだしました。カボチャのたねを よく くれましたね」


「!」


 手が止まる。目の前の文字とテーブルの上のハムスターを、交互に目で追った。


「え、お前、ひょっとして…」


 声が震える。すると、太郎はこくこくとその小さな首を振った。


 ピロン


「そうです。ぼくは しらたまです。いまは うまれかわって 太郎という なまえを もらって いきています」


「しらたま…」


 目頭が熱くなる。

あの日、しらたまの最期の時。しらたまは朝から何かを悟ったような目をしていた。うすぼんやり空を眺めるように、ずっと動かないでいた。


 けれど、子どもだった自分にはそれが何を意味するのかわからず、気にも留めていなかった。肝心の「夢」もこの日は発動せず、未来を知ることができなかった。


 そして、俺は学校から帰るとすぐに、友達と遊びに行ってしまったのだ。


「ごめんな、しらたま。あの日、もっと早く気が付いていれば…」


 思わず手を伸ばして、しらたまの小さな頭を撫でる。懐かしいふわふわの毛並みも、相変わらずだった。


「いいえ、どうか きにしないでください。あなたとすごせて ぼくはとても しあわせでした」


 チュウ、と可愛らしい声で小さく鳴く。

そして


「ぼくは うまれかわってからも あなたの ことを わすれたことは ありませんよ」


 文字を打つと、彼は俺の指をぺろぺろと舐めてくれた。親愛の印だ。

正直、ちょっと泣けた。


「ぼくに しらたまだった ときの きおくが あるように」


 メッセージ上の言葉が繋がれていった。しらたまは、真剣な表情で画面をタップし続けている。


「生まれ変わりと よばれる げんしょうは

ほんとうに あるんです」


 空気が変わった。

辺りにぴりりとした雰囲気が漂う。


「そして あなたが ゆめでみた かのじょは あなたと かつて かかわりがある 少女なのです」


 どうやら、ここからが本題のようだ。

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