10.コーヒータイムの毛づくろい

 喫茶店では自分はブレンドコーヒー、男の子はオレンジジュースを頼んだ。


 そして「太郎君」はというと、男の子の飲み物について来たおまけの豆菓子を、器用にその小さな手でもって食べている。


 かりかりかりかりかり…


 肝心の話はいつ始まるのだろう。というか、どうやって進めていくのだろう。


 俺がコーヒーを半分ほど飲み終えたところで、太郎も豆を三粒食べ終えた。と思ったら、今度は毛づくろいを始める。


 くしくしくしくしくし…


 そういえば、と思い出した。

自分も昔似たようなハムスターを飼ったことがあった。


 当時テレビでハムスターが主人公のアニメをやっていて、すっかり影響されたのだ。だだをこねて親にねだって、どうにか飼わせてもらったんだっけ。


 確か、名前は「しらたま」といった。カボチャの種が好物で、あげると喜んで大切そうにほお袋にしまっていた。カロリーが高いと言われていたヒマワリの種は、健康のため与えなかった。


 けれど、しらたまも他のクラスメイトのハムスター達と同じように、2年半ほどでころりと死んでしまった。それが彼の寿命だったのだ。


 まだ小学生だった俺は、愛するハムスターの死にたいそう傷付き、毎日泣いていた。そして、その後ペットを飼いたいと願うことはなくなった。


 太郎がぺろぺろと自分の毛並みを整えていると、どうにもしらたまの姿がフラッシュバックしてきた。小さな手で一生懸命、顔を洗うように動かしている。


 耳をなぜか後ろ足で掻くところまで(手でやったほうが楽だと思うのだが)全く同じだった。


 一通りの毛づくろいが終わると、男の子がスマートフォンをテーブルの上に置く。すると、太郎がてててと移動して、その黄色い板の上に自らの前足を乗せた。


 ピロン


 太郎がしばらく手を動かすと、すぐに俺のスマホの通知音が鳴った。連絡が来るだろうと思って、今朝予めミュートは切っておいたのだ。


 メッセージを見ると、そこにはこう書いてあった。


「それでは はなしを はじめましょう。」

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