4.太郎からのメッセージ上
ヨーゼフ、というのは俺の名前だ。
不破ヨーゼフ葉。
日本人の父親と、ドイツ人の母親の間に生まれたため、このような名前になっている。ミドルネームが珍しいらしく、子どもの頃から誰かに呼ばれる名は大抵「ヨーゼフ」の部分だった。
だから、この「太郎」なる人物に「ヨーゼフ」と呼ばれていても、なんら不思議ではない。だが、
「太郎」がどうしても思い出せない。本名だろうか? それともあだ名なのだろうか?
見た目が「太郎」っぽいとか。
…「太郎」っぽい見た目ってどんな見た目だ?
「久しぶり。えっと、どのくらいぶりだっけ?」
直接「誰?」と聞くのは流石に憚られたので、婉曲表現としてこう返した。すると
「もう なんねんも あってないですよね。」
どうとでも取れる返事が返ってきた。落胆した。これでは何も推測が出来ないではないか。そのまま画面を見続けていると、
「さいきん 前世の ことついて よくかんがえるようになって」
こんな文字が画面に映し出された。
は?という疑問符が頭に浮かぶ。
「それで、ヨーゼフさんのことを おもいだして メッセージをおくってみました。」
文を読んで彼は後悔した。
ああしまった、これはよくあるエロ系の出会いサイトなどへの勧誘だ。
こちらの名前も、何かSNSなどで調べたのだろう。うかつに返事を返してしまった。これは面倒なことになるぞ。
「今のぼくは ご主人さまに かわいがってもらって とてもしあわせです。」
そうか、僕っ子設定か。そして、「ご主人さま」とあるので、メイド喫茶やら何やらの店員ということなのだろう。
お帰り下さいご主人さま。
あ、これでは門前払いか。
「けれど、かつてのぼくは こどくな ドブネズミでした。」
ドブネズミとはまた、ずいぶんと自分を卑下したものだ。そんなにも不運だったり、見た目にコンプレックスなどがあったのだろうか。
「それはそれで きらくな じんせいでした。下水道のみちは ひろくて めいろみたいで どこか ロマンが ありました。
ネコなどに おいかけられても ここへにげこめば 安全でした。
水道管の たくさんとおった くらい まがりみち、 すこししめった 空気のなかを かけ回って ぼくは自由だと 思いました。
けれど、それでもやっぱり どこか さびしかったことを おぼえています。」
おや?と首をひねる。これではまるで、本物のドブネズミではないか。一体どういうキャラ設定にしたいのだろう。
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