3.タンポポ、そして桃色のうさぎ

 全ての講義を終えると、辺りはすっかり暗くなっていた。キャンパスは昼間とは違う、しんと静かな空気を漂わせていた。


 ここから自宅アパートへは、徒歩数分という距離。バックパックを背負うと、俺はゆるゆると歩き始めた。


 空を見上げると、吸い込まれそうな夜空だった。人間一人など簡単に飲み込んで、あの散らばる星屑の一つに変えてしまいそうな空だ。


 漆黒の闇から目を逸らし、視線を下に向ける。足元には、小さなタンポポが眠っていた。俺はそれを指で摘むと、ぷちりと千切り、バックパックのポケットへと放った。


 そしてまたタンポポ。先程と同じように、葉と花を千切ってポケットに入れる。


 黄色い小さなライオンのようなそれを見つけては、千切る、入れる、千切る、入れるを繰り返しながら、少しずつ家へと進んでいった。


 ふと、目の前を桃色のものが横切った。速くてはっきりとは目で追えなかったが、それはうさぎのように見えた。


 なんだったのだろうか?まあ、いいか。

一瞬足を止めて、再び歩き出そうと足を出す。


 その時、上着のポケットが震えた。その振動を胸に感じて、タンポポを摘む手を止めた。


 左胸に手をやると、そこにはスマートフォンが入っている。画面を見ると、一通のメッセージが届いていた。


「こんばんは。」


 そうメッセージにはあった。差出人欄には「太郎」と書かれていた。


 そんな、書類の記入見本のような名前の知り合いなんていたか?と訝りながらも、指でタップしてアプリを開く?


「こんばんは。」

「お久しぶりです、ヨーゼフさん。」

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