第24話 周りの視線と援助。

「それで?鈴宮姉妹が私のことに見覚えがあると?」


「あるかも、とか言ってたよ」


家に帰ると京姉はソファでぐてっと寝転がっていた。その京姉を無理やり起こして今日の事を今話している。


「確かに私は見たことはあったが、直接接触した事はないんだけどなー」


俺も京姉と晴達が接触しているところは見たことがない。


晴と晶が来るようになったのは二年生になってからだから、ちょうどその時期に京姉は勉強で顔をあまり見せなくなっていた時だから会う機会も少なかった。


俺が少し考え込んでいると京姉がもう一つ付け加えた。


「稽古のところを見られた事はあった気がしない事もない」


「んー、どっちだよ?」


「まあ誤魔化しといてくれ。別にバレるのが凄くヤバいって訳じゃないがバレない方が良いのは確かだからな」


「そうだね」


俺は素直に頷いて今日のご飯を何にするか相談し出前をとった。


出前をとったピザを京姉は大量に食い、すぐに寝てしまった。その京姉に布団をかけ俺も今日はすぐに寝た。



今日も朝はすぐに朝練があったが、昨日より早く帰ってきたことで余裕を持って家を出ることができた。


昨日みたいに遅刻するのも勘弁だからな。


俺は耳にBluetoothイヤホンを付けクラシック音楽を聴きながら優雅な朝をおくっていた。


そんな優雅な時間も後ろからの突撃で崩れたが……。


「「おはようあゆ!」」


「おはようございます神崎くん」


背中に鈴宮姉妹の飛び蹴りが炸裂した後に白石が挨拶をしてきた。ちょっと白石さん?これみてましたよね?僕飛び蹴りくらいましたよ何かいってやってください?


そんな事を心な中に無理やりねじ伏せていつも通りの歩調で歩いた。隣に三人がいて歩きにくいのはあったがな、周りの視線で……。


学校に向かっている途中美少女三人は野良猫を触りに行ったりと道草を食ってばかりしていた。そのおかげで……遅刻しそうじゃねぇーかよおい!


「あゆ疲れたー」


「俺だって今日は走らなくても間に合うと思ってたよ!」


そんなバカバカしいけど妙に笑える話を走りながらしてどうにか正門が閉まる前に校内に入った。


「「「だはー」」」


白石以外の俺を含めて三人は思わず口から謎の「だはー」という言葉が出た。


学校に着いたことに一安心している俺たちに白石が一声かける。


「神崎くん達今日は一限目と二限目連続で体育じゃありませんでしたか?」


「「「……」」」


……やばい。体操服忘れた。


同じように黙っている二人の方を向くと多分俺と同じような顔をしている。


あっ、こいつらも体操服忘れたな……。


三人で目を合わせて硬直していると白石も勘づいたのか哀れみの目で俺たちを見ている。


「ま、まあ仕方ないさ次持ってこよう」


「う、うんそうだね」


「よし!しーちゃん!気にせず教室に行くよ!」


そう言って晶は白石の手を取って校舎の中に入って行った。それに続いて俺も入ろうとすると後ろから肩を掴まれた。


「どうした遅れるぞ?」


振り返って晴に聞くと黙って手を出てきた。


「ん」


「え?俺が引っ張ってけと?」


「そうなのです!」


やだ、と口走りそうになったが結局晴は一度決めたことを曲げない性格とわかっているから周りの目を気にしながらも手をとった。


やだってのは周りからの視線が痛いからだからね?って俺何考えてんの……。


「ほ、ほら行くぞ晴」


「うん!」


周りの視線は痛いが晴のこの満面の笑みを見れたなら視線ぐらいどうってことない。


そう思いながら俺と晴も手を繋いだまま校舎の中に入っていった。


予想はしていたがやっぱり視線がいつもの痛いんだよなぁ。と、言うか教室では解いて貰えるんだよね?教室に入ってもこれだと間違いなく俺後ろから刺されるよね?


「は、晴?教室に着く前に」


「わかってるわかってるー」


良かった良かった。さすが晴だそこはきちんとわかっているんだね、ほんとに良かったよ。と、言う俺の安堵も一瞬でぶち壊されたのですけどね?


教室の前まで来て俺が手をはなそうとすると、さっきよりも強く握った晴が俺を引いて教室の中に入った。


「ちょ、ちょっとまった」


「ん?何どうしたん?」


「まだ離さないのか?」


「あゆが繋いでいたいって言ったんジャーン」


ん?どういう事だ?俺は晴に教室の前では離すよな?っていたよな?いや、言ってないな。俺が言ったのは途中までで晴はそれを繋いでいたいってのに勘違いを……したということか?!!?!


「あー、えーそのだな」


俺がいい澱んでいるそこに一人の女性が近づいてきた。背は高くて黒髪のロング……京姉だ。


「二人ともラブラブなとこ悪いんだが。神崎呼び出しだ、ちょっとこい」


「え、あ、はい」


急なことに頭が回転仕切らなかったが何とか返事だけはできたようだ。


「ごめん晴ちょっと行ってくる」


「ん〜?」


顎に手を持っていって何やら考え事をしているようだ。一体何をしているんだろうか。


「晴?」


「ん?あー、おっけー!呼び出しならしゃーないねー」


そう言って晴は教室の席に向かって行った。何を考えていたのか少しモヤモヤすることはあるがまずは京姉について行く。


人目がないところだと判断して俺は京姉に向かって聞いた。


「どうしたの今日は」


「歩の家には一週間いると言ったが、なんか工事が今日終わるらしいからもう戻るってこと伝えようと思ってな」


なるほどなるほど。だから人気のいない所まで歩いて来たと言うわけですか。


京姉は俺が不服そうな顔をしてると思ったのか頭に手を乗せてこう言った。


「大丈夫、高二にもなって年上のお姉さんに泣きじゃくっていたなんて誰にも言わないから」


「それネタにするの無し!」


京姉はツボに入ったのか背を向けてくすくすと笑っている。あー、なんで泣いちゃうなんてしちゃったかなー。


そんな事を後悔しているとある程度笑いが収まったのか今度は真剣な表情で俺の方を見た。


「まあでも、いつかは師匠、親父さんにも言わなきゃなんない事だからな。信じてもらえるかは別としてたが」


そう、京姉が俺に稽古を再開させたのはそれが理由でもある。親父を信じさせるには結局輝とやり合わないといけないのは事実。


輝を倒すのも稽古何じゃ少し時間がかかる。親父を信じさせるには瞬殺ぐらいの勢いで勝たなければならない。それを京姉も知っているから俺に稽古を再開させたのだ。


「わ、わかってる。いつかは必ず……」


それでも俺は決心がつかない我ながらダサいやつだ。ここまでしてもらってもまだダメなのだ。


そんな事を心の中で思っていると京姉が頭に乗せていた手を動かしてわしゃわしゃと撫でる。


「そう簡単に決心できるほどトラウマってやつ甘くないさ。そん時になったら私もついて行く、思う存分悩み足掻けばいいさ」


京姉は柔らかい表情でそう言って俺にひとつの鍵を渡してきた。


「これは道場の鍵だ、稽古の時はあそこを使うといい」


京姉は俺に鍵を持たせ、歩いて教室の方へと戻って行った。


やっぱりあの人はかっこいい。中学の時から、いやもしかしたら小学生の時から俺は助けられているかもしれない。そして今も、多分これからも幾度なく助けられる。


俺はそれを減らしていかないといけないんだ。いつまでもあの人に助けを求めるのはダメなんだ。それでも……甘えてしまう自分がいることを俺は知っている。


そんな自分に呆れながら俺は少し遠回りをしてから教室へと戻った。










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