第17話 中学の記憶

何もしなくなったのはいつになるか。


性格が悪い奴、暴力中と言われ始めたのはいつになるだろうか。


あの二人とあったのはいつだろうか。




中学に入ってからすぐに、俺は何もかもが投げやりになっていた。勉強はやらなくなり、授業も受けなくなっていた。


最初の方はみんなが心配して話しかけてきたこともある。しかし時間が経つにつれて一人、また一人とどんどん話しかけて来なくなった。


そしてクラスの40人ほどが話をかけてきていた最初の頃に比べて今はふたりしかもう来ない。



一条恒星という男子生徒と佐藤雪奈という女子生徒が今日も話しかけて来ていた。


「なあ神崎?今日こそ遊びに行こうぜ!」


「そうそう〜!今日こそ遊びに行こうよ神崎くん!」


この二人はいつも話しかけてくるクラスメイトの人だ。俺が何もやらなくなってからずっと話しかけて来ている。


「……なんでいつも話しかけてくるんだよ」


ついつい気になったことを聞いてしまった。


「お!やっと喋ったな神崎!」


一条恒星が白い歯を見せてニカッと笑った。


「そんなのもちろん仲良くなるために決まってるよ〜」


隣にいる佐藤雪奈も笑顔で言った。


こいつらは良い奴なのかも知れないが、バカなのかもしれない。もうクラスの中では性格の悪いやつって言われている。


そんな奴に話しかけてくるなんて良い奴なのかバカなのか分からない。


ってなんで俺がそんな事を考えているんだろうな。良い奴かバカなのかは分からないが悪い奴ではないと思う。悪い奴は俺だな……。


「……ごめん。遊ぶ気には慣れないんだ」


いつもは無言でつきとうしてたけど今日は何故か口を聞いてしまった。


今日も断ると一条達の友達がそろそろと一条達に話しかけている。


「恒星もうやめとけよ。あいつ性格悪いし目付き悪いだし」


「そうだよ、雪奈ちゃんもあんなやつと関わらない方がいいよ」


もう俺は慣れていた事だから窓の外に目を向けた。


俺が無視し続けていると、だんだんと悪口を言ってくるやつが増えていった。あれこれ約二ヶ月間ずっと言われ続けている慣れてくる。


いつもは一条達もその言葉に無視をしたり色々しているが今日は違った。


一条と佐藤はいつもとは裏腹に口が以上に悪くなってクラスメイトに言った。


「なぁお前ら。なんでいつも悪口なんて言ってんだよ。口聞いて貰えなくて悪口言うんなら最初からカッコつけで心配してるみたいな感じで話しかけに行くんじゃねぇよ!」


「ほんとだよねー、いちいち悪口を私たちに言ってきて共感かなんかでも求めてるわけ?」


窓の外を見ていた俺は驚いて悪口を言っていた連中の方に目を向けた。


いつもニコニコしているイケメンの一条が今は怒気に満ちた顔で連中を睨みつけていて、いつも笑顔でいる美少女の佐藤は見たことない冷たい目で連中を睨みつけていた。


「な、なんだよ。お前らのために言ったんだろ!」


悪口を言っていた一人の男子が言葉を詰まらせながら反論した。


「それまじで言ってんの?何が俺たちのためだよ、俺らは好んで神崎に喋りかけに行ってんだよ。俺はお前らみたいに悪口言ってる奴にお前のためになんて言われたくもない」


確信した。こいつらは正真正銘のバカで良い奴だ。


「お、お前らの方がいい子ぶってんじゃねーよ」


「そ、そうよ」


それに乗っかって他の連中も一条達に罵声を浴びせた。


その罵声も少したつと終わって、また雑談が始まった。


一条達はまた俺の席まで歩いてきて話しかけてこようとしているところに俺が先に話した。


「なんでお前らはあんな事をしたんだ」


率直に疑問をぶつけた。なんであんな事をしたのか俺には理解が出来ない。


「んなの決まってんだろ?なぁゆき?」


「当たり前だよねー、友達が悪口言われてたらムカつくのは当たり前だよー」


二人はさっきとは違いいつもの口調で話していた。この声を聞いてさっきどれほど怒っていたのかがすぐにわかる。


それになぜ友達なんて言ってくれるんだろう。


「ん?なんで友達なんて言ってくれるんだろうって今思っただろ?」


な、なんでそんなことが分かるんだ?!!


「友達だと思ったからそう言っただけだよー」


「分からない。なんでだ?」


「まあ、一番の理由は神崎の優しい一面を知ってるからだな」


少なくともこの学校に入学してから俺は全く優しくしてない。それどころか性格が悪いなんて言われている。そんな俺のどこが優しいというのだろうか。


「ちょうど二ヶ月くらい前になるか?」


「多分そのぐらいじゃないかなー?」


「何の話だ?」


「いや、学校に通う途中に川があるだろ?そこで神崎が溺れてる男の子を助けてるのを見たんだよ」


「そうそう、それでその子が泣き止むまでずっと話しかけてたでしょ〜?でも全然泣き止まなくて焦ってた〜」


少し笑いながら言ってくる佐藤に少しムカついた。


「その子を助けて神崎くんは自分の荷物流されてったんだよね〜!服もびちゃびちゃになってたし」


「それからその子のお母さんが来ても、男の子の頭に手を置いてからお礼のひとつも言われないようにすぐに帰ったろ。それで確信したんだよ、あいつは良い奴なんだなって」


「私もその時に神崎くんと友達になろうと思ったんだよ〜」


「……そんなところ隠れて見てんじゃねぇーよ」


そんなださいところを見られるなんて俺はバカだった。てゆーか恥ずかしすぎるだろ!


「でもそれで神崎の優しいところを知ることができたんだからな。神崎に何があったかは知らないけど、俺らはお前が良い奴って事を知ってるからお前にずっと話しかけてんだよ!」


一条はまたニカッと笑って親指を立てて言ってきた。その隣の佐藤も笑顔だった。


「……そうか」


「ってことで今日遊びに行こうぜ!」


「遊びにいこー!」


「いきなりだな。わかったいこう」


俺は久しぶりに心から笑えた気がした。


そう言った俺を唖然とした顔で二人が見てきた。そんなに了承したことが驚きだったか?


「いい笑顔できるんじゃねぇーか!」


「うんうん!いけるね!」


「何をいってんるだ?!」


そういうと二人は笑いだした。それにつられて俺も笑いそうになるのを堪えていた。


それからは恒星達とはよく一緒になることが多くなった。一時期恒星達が悪口を言われる時期もあったがある出来事でそれも収まった。


しかし俺の性格が悪いという噂は全く収まらず、それからも暴力中とも言われるようになっていた。それでも前とは違い、今は恒星達が友達になってくれたから全く気にすることもなかった。


俺はそれで両親から見捨てられたことも、輝に負けたことも頭の片隅まで持っていくことができた。それもあいつらのおかげかもしれないか…………




「神崎くん……神崎くん……神崎くん」


頭の中で誰かが俺の名前を読んでいる。


「起きてください……神崎くん」


「ん……ん?」


「起きましたか?起こしてしまってごめんなさい神崎くん。ご飯ができましたよ」


「あ、ああ」


久しぶりに昔の夢を見た。最近はよく昔の事を思い出すことが増えるな。白石と関わりはじめてから特に多くなったよな。


昔の夢を見るのは好きじゃないけど、今の夢は悪くないな。改めてあの二人には感謝しかない。そしてこいつにも感謝しないとな。


そう思いながら俺は白石の方を向いた。


「な、なんですか?」


白石は驚きながらも顔を少し紅色に染めながら聞いてきた。


「いつもありがとな」


「…………」


白石は無言で俺の方をジッと見ていた。


「な、なんだよ?」


「いえ、今の笑顔は自然な笑顔だなと思いまして」


「そうか?」


「ええ、いい笑顔です!」


「ふ、普通にそんな事言うんじゃねぇーよ」


眩しい笑顔でそんな事を言われたら目をそらさずにはいられない。


「本当のことですから。それではご飯にしましょうか」


「お、今日も美味そうだな」


「ありがとうございます」


白石はまたも眩しい笑顔でいた。自然な笑顔が出るのもこいつのせいだな。


俺は心の中で笑いながら手を合わせた。


中学一年生の時は恒星と佐藤と、そして今の高一では白石と。人との出会いは運がいいのかもしれないな。


「それじゃあ……」


「「いただきます!」」





















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