第16話 美少女の勉強開始合図

「悪いな急に人数増やしちゃって」


「一人、二人増えてもあまり変わらないので大丈夫ですよ」


微笑みながら言う白石は天使や女神みたいに綺麗で、外見だけではなく中身も天使や女神のように優しい。


夜ご飯までは時間があるので俺はさっき気になった事を白石に聞くことにした。


「どうして家に入ってこれたんだ?鍵もちゃんと閉めてたはずだけど」


俺はインターホンがなると思って余裕を持って待機してたら、いつの間にか家に入っていた。


「あの、神崎くん」


「ん?」


「忘れてたんですか?」


一体何を忘れたんだろうか。


「家の鍵渡してくれたじゃないですか」


「……そういえば渡してたな」


てっきり忘れていた。でもこれでなんで入ってこれたのかもわかって、何となくスッキリした気持ちになった。


「やっぱり返した方がいいですか?」


少し申し訳なさそうに白石が鍵を出そうとする。


「いや、普通に俺が忘れてただけだから気にしないでくれ」


「そうでしたか。ならこれからも預からせていただきますね」


「これからもよろしく頼むは」


俺は自分のできる限りの精一杯の笑顔をした。


「…………」


「学校でもその笑顔を見せればいいと思いますよ」


「そんなに真面目に言われても困るぞ」


「しないと言うことですか?」


目に見えない圧力が白石からぶつけられているような気がして仕方がない。


気づいてない気づいてない気づいてない……


「……気が向いたらな」


これは俺の意思ではなく言わされたんだ。言わないとご飯作ってくれなくなる気がしたから言うしかなかった。


「それ絶対やりませんよね。私にご飯が作って貰えなくなるかもしれないから仕方なく返事をしましたね?」


「だから心を簡単に読み取るのはやめよう白石さん?」


だんだん驚きじゃなくて怖くなってきたよ、リア充の心を読む能力。


「それよりも神崎くん勉強の方はどうですか?」


俺の指摘を無視して勉強の事を聞いてきた。多分もうすぐ期末試験があるからだろう。


「ん、ああ、まあ何とかなる」


完全なる嘘である。俺は中学から勉強を一切して来なかったし、授業すらまともに受けていない。


「そうですか。少し電話をしてもいいですか?」


「全然構わない」


白石は携帯を出して誰かに電話をし始めた。何か急ぎの用事でもあるんだろうか。


「もしもしゆきちゃん?」


『なになに〜?』


電話の相手は佐藤のようだ


「今近くに一条さんはいる?」


『ちょうど隣にいるよー!変わった方がいい?』


「いえ、一条さんに聞いて欲しいんだけど神崎くんは授業をちゃんと受けてる?」


俺は白石の話を聞いてようやくわかった。恒星に聞いて本当かを確かめようとしている……。


「……俺は授業受けてるぞ」


「一応一条さんに聞いてるだけなので本当なら構いませんよね?」


多分最初に俺が嘘ついてることに気づいたんだろう。だからすぐに電話をして確認を取ろうとしたのか。恐るべしリア充の能力。


『ん?歩はいつも授業寝てるぜ!』


『てゆーか中学の時から歩寝てたよ〜』


恒星からのクリティカルヒットをくらって、追い打ちで佐藤からのクリティカルヒットも受ける大ダメージだ。


「そうだったんですね。ゆきちゃんありがとね、一条さんにも伝えといてくれる?」


『おっけー、それじゃあね〜』


「また明日ねー」


恒星や俺と話す時とは違う柔らかい喋り方なのかと変なことを考えた。


そんな事を思ってるのも一瞬のうち、俺は恐る恐る白石の方を見る。するとクールで冷徹な目線が俺の目を捉える。


「ごめんなさい、勉強できないです」


これ以上嘘をついてもすぐにバレると思った俺は即座に謝った。


「謝らなくても大丈夫ですよ」


最初は冷徹な目で怒ってると思ったが口調はいつも通りで怒ってはなかった。


「それでは今日から勉強を始めましょうか」


「へ?」


急な申し出で思わず変な声が出てしまった。勉強を?教える?俺が?やる?


……嘘でしょ?


「へ?ではないですよ神崎くん。中学の時からまともに授業を受けてこなかったと言うことは、中学の勉強も覚えてないと言うことですか?」


「はい、そうです」


俺は正直に白石に言った。


「わかりました。まずは今度の期末試験まで猛勉強をしてもらいます」


今度の期末試験は6月の末にある。もうすぐで1ヶ月後に迫ってくる。


「残り1ヶ月ちょいでどうする気なんだ?」


「できるところまで鍛え上げるつもりです」


「なるほどな、ありがたい申し出だけど断っておく。俺のせいで白石の勉強の時間を削ることは出来ん」


勉強はしなくともこの前の試験でも赤点は回避できたし、ギリギリにはなるとは思うが鍼灸はできるだろう。それにこれ以上迷惑はかけられない。


「ただのお節介です。させてください」


真剣な眼差しで言ってくる白石はこれでもかというほど俺の目を見てくる。


「それに神崎くんに教えてるくらいじゃテストの点数は下がりません」


「まあ、確かに白石は頭がいいって聞くけどな……」


「なら大丈夫ですね。それじゃあご飯の準備ができるまでに英単語50個をまず覚えてください」


もうこれ以上断ることは出来ないな。半ば強引だけど俺のためなのかもしれないからありがたく教えてもらおう。


英単語50個って聞き間違えかな……?


「なんか今英単語50個ご飯ができるまでに覚えるって聞こえたんだけど気のせいかな?」


「ほんとに決まってるじゃないですか」


鬼だ。鬼畜だ。学校での神、天使、女神とは裏腹だよみんな。


「そうじゃないと明日のお昼の弁当は抜きにします」


「おうけいわかった。だから弁当だけは作ってください!!!!!」


頭を床に擦り付けて土下座をした。みっともないが俺はとっくに白石のご飯の虜だ。


「土下座はやめてください……ふふっ」


「どうしたんだ?」


「土下座してまで弁当を頼まれるなんて、会った時は想像してもいませんでしたから」


確かに俺も白石とこんな関わりをするとは思いもしなかった。


俺は短所の目立つそれ以外なんの変哲もない男子高校生だから。中学学校では性格が悪いと有名になり、高校でもそれは知れ渡っている。


対照的に白石は入学してすぐに学校一の美少女として有名になり、最初の試験では全教科満点ときた。運動神経も抜群と俺とは正反対な有名人だ。


「俺も白石となんて一生縁のない人だと思ってたよ」


「そうでしょうか?ゆきちゃんとは前々から知り合いでしたし関わりはもてたんじゃないですか?」


「ないな、白石も知ってるだろ?俺が学校で性格が悪いのは入学してすぐに知れ渡ったんだ。ある意味有名だけどそれ以外だと空気のような扱い。教室にいても気づかれないレベルだ、そんな俺とは正反対な白石が関わりをを持てると思うか?」


白石は少しムッとした表情で口を開いた。


「そんな事は関係ありません。神崎くんは学校では見せませんが優しいです。みんなが思っている人柄ではありません」


「褒められるのは嬉しいが、俺と話したことない人は俺を警戒するんだよ。こうして俺と白石が関わらなかったら白石も俺とは関わろうとはしなかったはずだ」


「それは、、、」


白石は言葉を詰まらせた。無理もないだろう、本当のことなのだから。


しかしこれ以上話を続けると居心地のいい場所が居心地の悪い場所になってしまう。それだけはあってはダメだ。


「まあ、今は白石と会えて助かってるし良かったと思ってる。こうやって土下座してまで弁当を作ってもらおうとするぐらいな」


俺は慣れない笑顔でそういった。やっぱり自然に笑うのは難しい。


「そうですね、私も神崎くんと会えて良かったと思っていますよ」


白石も神、女神、天使のような微笑みを見せた。相変わらずすごい癒しの効果だなぁ。


「それでは私はご飯を作ってきますので、神崎くんは英単語を覚えていてくださいね」


「ああ」


そう言って白石はご飯の準備、俺は単語を必死に覚えた。


白石のご飯ができるまでとにかく覚えてない単語をひたすら読んで書くの繰り返しをした。しかし頭には全然入ってこない。さっきの中学のことで頭がいっぱいになっている。


「おかしいな……もう忘れたはずなんだけど」

























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