第10話 美少女との時間

スーパーはアパートから近い場所にあるためすぐについた。


俺は学校のやつに見られないか少し心配になってきた。いくら俺が目立たないやつでも隣に白石という美少女がいるだけで違ってくる。そう、月とすっぽんだ。


「学校の誰かに見られたら白石も色々とめんどくさいんじゃないか?」


「この時間帯はあまり学校の人は来ませんから、大丈夫ですよ」


今の時刻は昼前だ。白石は自分でも目立つ事は自覚しているようで、あまり学校の人がいない時間帯に買い物をしているらしい。


学校の人じゃなくてもみんな見てるけどな…。


「神崎さん?いえ、これからは神崎くんでもいいですか?」


「呼び方なんてなんでもいい」


俺なんて呼び捨てだしな。


「ありがとうごさいます。では神崎くんの好きな食べ物と苦手な食べ物を教えてください」


「好きな食べ物はハンバーグと厚焼き玉子だな。苦手な食べ物は特にないが、強いて言うなら……ピ、ピーマンが苦手かな」


微妙に苦手な食べ物がピーマンということが恥ずかしく感じた。言わない手もあったが後々バレる気もしたので隠さず伝えたわけだ。


それを聞いた白石はと言うと、少し驚いた表情をした後笑いを堪えるように俯いていた。こ、こいつ子供みたいとか絶対思ってるだろっ!!


「性格に似ずなかなか可愛い所もありますね」


いつも通りのクールな美貌に戻して言ってきたが言ってることがバカにしてるようにしか思えない。


さっき笑いこらえてたの知ってるからね?!


「別にいいだろそんなの。それで今日のご飯は何にするだ?」


好きな食べ物を聞いてきた時、今日は俺の好きな食べ物を作ってくれるのかと気体をしていた。


「今日は神崎くんのために腕をふるって見ようと思います」


いつもと言うほど白石の料理は食べてないが、あんな美味しい料理+好物となると心底嬉しいものだ。本当にありがとう白石。


しかし俺の予想は見事に間違っていた。


「今日は神崎くんが苦手な食べ物を克服するためにピーマン料理を全力で作りたいと思います」


してやったりみたいな顔で俺の顔を覗いてきたが、心臓に悪すぎるからやめて欲しい。目の保養にはなるけどね?


それでも以外に白石にも遊び心があるんだなと思った。普段の学校では誰にでも優しいクール美少女だが、今はなんか違う気がする。何かは分からないけどこっちの笑顔の方がいきいきとしていて、いつも以上に可愛い気がする。


「おぉー今日も期待してる」


少し苦手なピーマンでも白石が作れば美味しい事ぐらいは白石の料理を食べていれば分かるので、それほど苦痛でもない。むしろありがたい限りだ。


「そんなに残念そうじゃありませんね?」


「そりゃあ白石の作る料理だったらなんでも美味いと思うからな」


別に俺は口説いてるわけじゃない。ただ普通にそうだと思ったからであって他意は全く無いことだけは忘れないで欲しい。


「そ、そうですか。そう言って貰えると作りがいもありますね」


何故か白石が誤解してそうなので一応補足だけはしとくことにする。


「一応言っとくが口説いてるわけじゃないからな。ただ思ったことを言っただけだから全く他意はない」


「そうですか。それじゃあ買い物を進めますよ。あまり話し込んでいるとお昼になっちゃいますよ」


「そうだなー」


そうしてちょっと雑談を交わしながら買い物を済ませて家に帰った。



「はぁ……重かったあ」


思わず口に出るほど荷物が思った以上に重かった。


最初は半分に分けて持っていたが、作って貰うなら荷物ぐらいは俺が持ってく方がいいと思い両手をふさいだ。


「ちょっと買いすぎじゃないか?」


「そんなに買ってはいませんよ。二人分なのでいつもより多くなっただけですから」


確かに二人分になればその分多くなるか。


「私は家から調理器具を取ってくるので野菜とか冷蔵庫にしまっといて貰えますか?」


「はいよー」


野菜はすぐに冷蔵庫の中に入れることができた。なぜなら家には冷やすものが全くないからだ。食材がないとも言う……。


「それでは作りましょうか」


「俺もなんか手伝うよ」


「神崎くん何かできるんですか?」


白石は少し呆れたように言ってきた。反論はしたいところだが、言われた通り俺は何も出来ない。


「……できません」


「そうでしょうね。ソファにでも座ってくつろいでいてください」


「悪いな全部やってもらう形になって」


「私がやりたいと思っているんですから気を使うことはありませんよ」


この時点で俺はもう一生分の恩を貰っている気がする。どうやったらこの恩を返せるんだろうな。


そんな事を考えいるのはお見通しだみたいにこっちを見ていた白石は苦笑しながら口を開いた。


「私は恩をうっている訳ではないので恩返しをしようなんて思わないでいいですよ」


「ほんと前から思ってたんだけど簡単に人の心を見透かさないでね?!あまりにも的確すぎて鳥肌もんだ」


「神崎くんのさっきの表情を見れば誰でもわかると思いますけど」


今だけじゃなくて前もなんだけどな……俺今そんなに変な顔してた?


「そんなに表情に出てたか?」


俺は自分の顔をつねったり引っ張ったりしながら聞いてみた。


「はい、かなり表情にでてましたよ。前にも言いましたがこれは私のただのお節介であって偽善ですから気にしなくていいです」


「前に、俺が似たようなことを言った気がするんだけど」


俺が傘を渡して熱を出した時に俺はその言葉を白石に言った。そんなに心に響いたのか?


「神崎くんもそれを言っていたのでそれを言えば反論してこないんじゃないかと。結果反論してきませんし」


ただ俺に言うことを聞かせやすいから使ってるだけかよ……。


「お節介にも限度があることぐらいは知っておけよ。こっちとしてはありがたい限りだせどさ」


「わかってますよ」


そう喋ってるうちに白石は昼ごはんを作り終えたらしく、運ぶぐらいはしようと思いキッチンまで足を運んだ。


「ほんとにピーマンばっかだな」


宣言通り白石はピーマン料理に腕をふるったらしくかなり量が多い。でもその料理は全部が好物のハンバーグや厚焼き玉子みたいに美味そうに見えるのはほんとに美味いからだろう。


白石は申し訳なさそうにこっちを見ている。


「どうした?」


「その、あまりにも作りすぎてしまったので夜ごはんもこれでいいですか?」


「そんなことか。別に美味しそうだし気にしないぞ。今日もありがとな」


そう言って俺は机の方まで料理を持って言った。若干白石が顔を赤くしているのは料理中暑かったんだろう。


「それじゃあいただきます」


「どうぞ召し上がってくたさい」


俺は苦手な食べ物であるピーマンをなんの躊躇もせずに食べた。もちろん美味しいと確信してやったのだが思った以上に美味しくて箸が止まらなかった。


あまりにも速い速度で食べている俺に驚いていた白石は苦手料理じゃなかったの?みたいな顔をしている。


「神崎くんはピーマン苦手じゃなかったんですか?」


そう聞くのも当然のことだろう。普通苦手な食べ物をここまで食べるやつなんていない。もちろん俺もそうだ。ただ白石が作ってくれたピーマン料理は好物になるぐらい美味いのだ。


「確かにピーマンは苦手だよ。でもやっぱりというか、白石が作ったやつが美味すぎるんだよ。まじでありがとな」


「そう言って貰えると嬉しいです」


そう言った白石はほんとに嬉しそうで普段学校では見せているクール美少女の笑顔ではなく、無邪気に笑う少女のような満面の笑みだった。


思わず見とれてしまってずっと見ていたら白石も少し引いていた。


それから昼ごはんを食べ終わって部屋で白石といた。特に特別な事がある訳でもなく無言になったり少し喋ったりと他の人から見れば気まずそうに見えるかもしれないが、俺はこの空間が居心地のいいものだと思っていた。


こんなことを思うなんて俺らしくもないし、白石に言えば気持ち悪いと思われると思うけど、俺はこの時間がずっと続いても悪くないと思うようになっていた。

























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