第7話 美少女の恩返しは終わる
二日ぶりのバイト先で俺は今働いている。前までならいつも来ていたが、店長に働きすぎというわけでシフト調整をされたから二日ぶりという訳だ。
バイト中はできるだけ学校では見せない笑顔を顔に貼り付けてやっている。あまり学校の人にはみられたくはないが、幸いここは学校から少し遠い店で、学校の人達は大体学校に近い店に入る。
だから俺はここでバイトすることを決めた。予想通り俺がバイト中の時は一回も同じ高校の制服を来ている人は見たことがない。
それなのに、それなのになぜ見知った顔のやつが来ているんだ。
「なん、、、で?」
思わず声に出してしまった。ついさっき見た顔が二つ。白石と佐藤だ……。せめて俺のシフトが入ってない時に来いよ。俺は他に出迎える人がいないか店内を見渡すと誰一人行けそうにない。
いくしかないかぁ……
あんまり気は乗らないがこれはバイトだ。俺は俺が神崎歩だとバレないように学校では絶対見せない笑顔を顔に貼り付けて白石と佐藤に近づいた。
「いらっしゃいませ。二名様でいらっしゃいますか?」
「いえ、あと一人来ます〜」
最悪の連続だ。まさか恒星も来るなんてバレる確率がかなり上がった。そういえば昼休憩の時別れ際にあとでね、とか恒星と佐藤言ってたな。ここに来るなんて全くの予想外だ。
「あっ、きたきた〜」
どうやら恒星が到着したらしい。
「すまーん遅れたー」
「ギリセーフですね」
「いや、アウトにする〜」
これはもう案内してもいいのか?まだしない方がいいのか?
「三名様でお願いします」
そこで白石のないすアシストで案内出来る。心の中で感謝申し上げる白石殿。
「かしこまりました、席にご案内します。こちらへどうぞ」
あとはメニューを渡しておすすめを言ってこの場を素早く離れるだけだ。
三人が席に座ったことを確認してメニューを渡し今日のおすすめを教える。これであとは去るだけ
「ご注文が決まりましたら、お呼びくださいませ」
よし、無事地獄の接客が終わったぁ。
今気づいたけどバレずに接客をするのはかなりハードルが高い。我ながらよくやったと思う。
そう思いながらまたバイトを再開した。注文が決まった白石達のところには他の店員が行ったし、料理を運ぶのも俺じゃなかったので、これは不幸中の幸いってやつだろう。
そんな地獄の今日のバイトは白石達が帰る前に終わった。
時刻は午後7時を回っている。少し遅い気もするがリア充高校生というものはそのぐらいまでは遊ぶのだろう。俺には全く縁のない話だけど。
俺はすでに真っ暗になった道を無心で自転車を漕いでいた。
ここから学校は少し遠いが、俺が住んでるアパートは学校とバイト先の間にあるため、それほど遠くない。
今日の家には白石が作り置きしてくれた美味しいご飯が待っている。無心で漕いでいると不意にそんな事を思い出して、少し気分が上がった。
家に着くと俺は早速風呂に入り、ご飯の準備をした。
「すげえ……」
昨日見た時は冷蔵庫に入ってる状態で中身は見えなかったため、何が入ってるかはわからなかった。
豚バラ白菜にチキンのトマト煮が皿に分けて入っている。見てるだけで美味しさが伝わってくる。これを食べたら俺は他のものが食えなくなるんじゃないかと思うまである。
レンジで温めて店で買ったレトルト米飯を用意して席に座る。
「いただきます」
まずはチキンのトマト煮に箸を伸ばす。それを口に運ぶとそれはまた美味い。
「……美味い」
白石の料理を食べるとつい美味しいという言葉が自然に出てくる。
次は豚バラ白菜を食べる。これもまた美味い。
「……美味い」
また口にしてしまった。魔法でもかけられているんじゃないか?とも思ってしまう。
これが白石に作ってもらった最後の料理になると思うと食べるのに少し躊躇する。
でも箸と口は止まらない。
「ふぅ……久しぶりに夜ご飯を美味しく食べれたな」
いつもはゼリー飲料かカップ麺で済ましている俺からすると、この料理は神様からのめぐみと言ってもいい。白石は女の子だから女神になるな。
そうして余韻に浸っていると、インターホンがなった。
もうすぐ9時になる。宅配便とも思わないし俺には来客も少ない。誰だと思いながらドアを開けた。
ガチャ
そこにはついさっき見た顔があった。黒髪ひとつない茶髪のロングヘアー。ぱっちり二重の茶色の目。背はそれほど高くはないが女子の平均より少し小さめの背。
校内一の美少女、白石白がいた。
「……なんか用か?」
「夜ご飯はもう食べられましたか?」
「ああ、食べたぞ。文句無しのめっちゃ美味かった」
「そうですか、お口にあって良かったです」
「ほんと、ありがとな」
「いえ、大したことでは無いので」
「んで今日は何の用だ?お礼を言われに来たんじゃないだろ?」
「普通にお皿を回収しに来たんですが……」
え?あれ白石の家の皿だったのか。良く考えれば俺の家にあんな皿なかったな。
「あぁーそうだったのか、今持って来るよ」
「はい」
俺はキッチンの方に向かい借りていたお皿二枚をとり、また玄関の方に向かう。普通にキッチンを使ってたけど片付けて置いてくれたのか。もう一回お礼をしておこう。
「おまたせ。あとキッチンの片付けありがとな、助かった」
「気にしないでください。お皿洗っといてくださったんですね」
「借りたものは借りた時以上に綺麗にして返すのがマナーだからな。借りた時がどれほど綺麗だったのかは知らんけど。」
「ふふっ。そうですね、いい心がけだと思いますよ」
褒められるのはあまり慣れてないため、妙にむず痒い。
「それより今日バイトしていましたね」
一瞬何のことだと思ったがすぐに思い当たる。バレ…てた?
「なんの事だ?」
上手く反論できた!我ながら上出来の切り返しだ。
「嘘をついても無駄ですよ。雪菜さんと一条さんも気づいていましたし」
「なんで分かるんだよ……」
「あれでバレないと思っていたんですか?」
なかなか心にグサッと来る言葉だな。自分では我ながら上出来だと思ってんだんだけどな。
「声と顔で丸わかりですよ。いつもはあんなに可愛い笑顔をしたりしませんよね?」
「男に可愛いいうな」
「普通に可愛かったですよ?一条さんと佐藤さんは席で爆笑してましたけど」
「だからバレたくなかったんだ」
「学校でもあんな感じで入れば今よりはモテると思いますけど」
褒められるのはむず痒いけどこれは嫌味にしか聞こえないぞ。
「ちょーモテてる白石に言われても嫌味にしか聞こえん」
「ほんとですから」
「そうかそうか。それよりもう遅いから帰った方がいいぞ。ここら辺はあんま学校の人は来ないけど、もし見られたら変な噂が経つかもしれんしな」
「そうですね。それではここで失礼します」
俺がマンションの入口まで送ろうと考えていると今日は送りはいりませんのでと断られた。
「それではまた明日」
「じゃあな」
また明日という言葉に引っかかったが気にしないことにした。
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