第5話 美少女がお節介を焼いてきた
翌日俺の熱はすっかり引いていた。
いつもより少し遅く起きたせいで、ちょい急ぎで学校に行く準備をすませた。
準備は早くしたものの行く時間ギリギリに準備が終わった。今日は昨日作り置きしてもらったご飯を食べる予定にしてたけど時間がピンチになるという悲劇もあり、夜に食べることにして、いつものゼリー飲料を飲みながら玄関をでた。
「あ……」
玄関を出てドアの鍵をかけようとしていた時、隣のマンションから昨日聞いたばかりの声が聞こえた。
「……」
昨日の事をお礼するべきかと考えたが、考えつくよりも先に白石の方から喋りかけられた。
「作り置きしておいたご飯はだべなかったのですか?」
なんでわかったんだ?と一瞬疑問に思ったがすぐにその疑問は解消された。
なぜなら、ゼリー飲料を加えていたからだ。
「今日は少し寝坊してな」
「いつもゼリー飲料などで朝食は済ませているんですか?」
「ああ、美味しいし速く食べれるからな」
「昼食もですか?」
「学食よりも安いし、今日もゼリー飲料で済ませるつもりだ。」
「……そうですか」
「ああ。それと、ご飯ありがとな。ありがたく夜に食べさせてもらう。」
「はい。お気になさらず。」
「それじゃ」
お礼も言えたことで俺は少し早歩きでその場を去ることにした。
このまま喋り続けると学校に遅れるかもしれないし、勘違いもするかもしれない。
「どうだー?元気になったかー?」
「もう熱も完全に引いたよ」
学校についてすぐ恒星はリア充グループから抜けてこっちに来た。
「それは良かったな!」
「良かったよ」
学校を休むと連絡した朝から恒星はずっと俺にメッセージを送ってきた。
『死んでないか?』
『今日見舞いには行けないからごめんな』
など色々送ってきた。とにかく恒星は優しいし、面倒みがいい。本当に俺の友達なのだろうか。完璧イケメンの恒星と自分で言うのはなんだが全てがほぼ普通の影の薄い俺とはあまり釣り合わない気もする。
俺の友達は恒星しかいない。それに比べて恒星は顔が広い。学年を越えても友達がいるほどだ。
「歩はもう少し食事に力を入れた方がいいと思うぜ。」
「急になんだよ」
「いや、熱を出す前から歩顔色悪かったし。ゼリー飲料ばっか飲むなよ?」
「……わかっている」
今日の朝きちんとゼリー飲料を流し込んできたばかりだ。
「ちなみに今日の朝食は?」
「ゼリー飲料」
「……昼食は何にするつもりだ?」
「ゼリー飲料」
「弁当とか作る気はないのか歩。」
「俺が作れると思うなのか?」
「うん。作れないな!」
あっさり肯定されてしまう。もう少しフォローしてくれてもいい気もするが仕方ないことだな。
「まあ今度俺が作り方を教えてやるから、キッチン片付けて置いてくれよ。この前行った時はカップラーメンの容器ばっかだったからな。」
「……できる限り」
「おう!そうしておいてくれ!」
ほんとに恒星は面倒みがいい。だから人気なんだろう。
それから午前の授業が始まるチャイムがなった。
昨日休んだ分取り返さないといけないと少し張り切って授業に取り組もうとした。
しかし、睡魔という敵には叶わない。速攻で一限目の授業は眠ってしまった。
それからも二限、三限の授業も寝てしまいやる気が完全になくなった。
午前の授業の最後は約三時間も寝れば睡魔も襲ってこなくなり、先生の言葉を聞いている振りをして乗り切った。
昼食の時間になっても俺は席から動かずゼリー飲料を2つ机の上に置いた。そして、1つ目に手をつけようとした時だ。
「か、神崎ーーー?」
珍しい事もあるんだなと思った。クラスメイトの一人に呼ばれた。名前も顔も分からないが呼ばれたからには反応するしかない。
「なんだ?」
クラス中がざわついていた。一体なんの騒ぎだろうか。
「し、し、白石さんが、ヨ、ヨンデルゾォ」
最後の方はもうカタコト言葉じゃないか。ってなんで白石がいるんだ……。
クラスからはなんであいつが?てかあんなやついたっけみたいな視線が俺に向けられている。
俺だってなんで呼ばれたかなんて知ったこっちゃない。それでも恒星はなぜかニヤついていた。気持ち悪いぞ。
「なんの用だ?」
「朝、神崎さんのお昼ごはんはゼリー飲料と言っていたので私のご飯を分けようと思って」
昨日借りは返されたからもうなんの関係もないと思うんだが。
「いいよ、悪いし。白石のごはんがなくなるぞ?」
「今日は余分に作りすぎてしまったので、食べていただけるとこちらも助かります。」
なら少し貰ってもいいのか?白石の料理は昨日食べてわかったけどめっちゃ美味しい。それをくれると言うんだから潔く貰いたい気持ちがある。
「本当にいいのか?」
一応もう一回聞いてみることにした。
「はい。食べるのを手伝っていただけると嬉しいです。」
手伝って欲しいなら仕方ない。食べることにしよう。
「わかった、でもどこで食べる?」
「中庭で食べましょうか」
「ん」
そういって廊下に出るとクラスよりも痛い視線を浴びせられる。
無理もない、俺みたいな影が薄い普通の人間が校内一の美少女と歩いているんだ。やっぱり断るべきだったか?でもあそこで断れるほど俺の肝は座ってない。
それから中庭まで無言が続く。
「なんでこんなお節介を焼くんだ。」
中庭に着いてから素直に聞いてみることにした。
「いえ、私の善意がゼリー飲料だけで一日を過ごそうとする隣人を見過ごせなかっただけですよ。」
地味にディスられている気もするがここはスルーしておこう。それと夜は昨日作り置きして貰ったご飯を食べるつもりだし。
「では、時間もないですし食べましょうか」
「ああ。ありがとな」
一応お礼は言っておく。
そして弁当箱の箱を白石が開けると、また美味しそうなご飯が弁当箱に詰められている。
「これはまた美味そうなご飯だな」
「ありがとうございます。でもそうでもないですよ?」
これは謙遜してもしきれないと思う。匂いからもう美味そうだ。
「それじゃあ、いただきます。」
「どうぞ召し上がってください。」
中庭にはリア充がかなり集まっている。そこに俺がいる。場違い感が尋常じゃないほど出ている。白石はと言うと、美少女すぎて逆に浮いているかもしれない。俺とは正反対だ。
そんな事を考えながら食べていると、俺の唯一の友人とその彼女が来た。
「俺らも混ぜて貰っていいかぁー?」
「やっほーハークちゃーん!」
恒星と
これで俺は完璧な場違い人間になってしまった。
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