第4話 デリカシーは大切

全く気づかなかった。隣に誰が住んでるか気にもせずにいたとしても一人暮らしを初めて約2ヶ月間隣人に合わないということがあるのだろうか?いや、普通はないよな。


「一度もこのアパートであったことないんだけど?」


俺の部屋はアパートの二階の一番隅っこにある。だから学校に行く時とかは全ての部屋の前を通る。なのに一回もあったことがない。これは避けられていたんじゃないのか?


「はい、そうですね。私は隣といっても、隣のマンションの2階の住人です。一応隣の住人ですよね?」


「は?」


「分かりませんか?」


「いや、分かるけど……」


まんまと引っ掛けられたと言うわけか。


まあそうか。隣のマンションの人となると一回も会わないのも納得が行く。


ん?じゃあなんでさっきため息を疲れたんだ?


「よく学校に行く時ドアの前で神崎さんがこちらを見ている気がしたのですが、私の気のせいでしょうか?」


勘違いをされていたのか。ただ俺はいつかこんなでっかいマンションに住みたいと思って見ていただけだ。


これは弁解しなければ。あっちから見ればただのキモイやつじゃないか……。


だから名前を覚えていたのか。うん。納得できるな。


「いや、俺はただでかいマンションに憧れを抱いていただけだ」


何とか弁解できたかな。


「あ、そうなんですね。てっきりストーカーかと思っていました。ごめんなさい。」


やっぱりそんな風に思われていたか。


まあ無理もないか。でもこれで勘違いもなくなったと思う。てかなくなって欲しい。


「そうか。って結局あっちのマンションまでは歩くことになるよな?」


「そうですけど」


はぁ……


白石はもう少し警戒した方がいい気がするんだよなぁ。


「前まで送る」


「いえ、大丈夫です」


すごい速さで拒否された。でももう遅いからな。犯罪にあったら白石だけじゃなくてこっちも困る。だから俺は折れずに言い返した。


「いや、送ってく。さっきも言ったけどなんかの犯罪に巻き込まれたら一番怪しまれるのは俺だし。怪しまれなくても罪悪感半端ないから。」


「そんなに心配されても困るんですが……。分かりました、マンションの前までお願いします。」


「ん」


俺と白石はそのまま玄関まで行って靴を履いて外に出る。


外はもう完全に真っ暗だ。5月半ばの夜はちょうどいい感じの風邪が吹いていて涼しい。


そんなことを思いながら歩いているとすぐにマンションの前まできた。改めて見るとセキュリティも完璧そうだ。


白石の両親は金持ちなんだろうか。見るからに高そうなマンションだけど。


「なあ、ちょっとプライバシーに関わることだと思うけどあんたの両親は金持ちなのか?」


自分で言ってはなんだがバカな事を聞いたなと思う。


「そうですね。大金持ちってほどではないですけど、一般の家庭よりは裕福だと思います。」


「そっか」


俺の勘違いかもしれないが、なぜだか今の白石はすごく暗い感じがした。


昨日の雨になにか関係があるのか?


「あと一つ聞いていいか?」


「なんですか?」


「昨日なんで傘もささずに雨に打たれてたんだ?」


「…………」


「両親?」


「……違います」


違うかぁ。それじゃあ一体なんだろうか。


「彼氏?」


俺は思った事を口にした。


「なんでですか。私は交際なんてしていません。」


「え?まじか……」


「なんなんですか」


「いや、あんためっちゃモテてるから一人や二人はそーいう関係の人もいるのかと思って。」


「……っ!」


今度ははっきりとわかった。彼女の表情が一瞬で強ばって綺麗な目が俺の目を睨みつける。


聞いてはいけない事を聞いたかもしれない。彼女の地雷を踏んだと理解した。


「なにを言っているんですか。あなたには関係ないでしょう。ましては交際した事もありませんし作ったとしても同時に二人もの人と交際するように見えるんですか?私は絶対にそんなことはしたことありませんし、今後も絶対にそんなことはしません。」


これはガチの地雷を踏んでしまった。彼女は俺から見てもめっちゃモテている。だから彼氏がいないなんて思いもしなかった。だから一人や二人は前にいたんじゃないか?という事を言ったつもりだった。


「すまん、そんな風に言うつもりじゃなかった。」


これ以上探るのは辞めようと判断した。


「はい…。すいません、私もつい熱くなってしまって。」


俺はもう少しデリカシーというものを身につけた方がいいのかもしれない。


「昨日は少し嫌なことがあって雨に濡れて紛らわしたかっただけですので。それで神崎さんに熱を出させてしまったのは申し訳ないと思っています。」


やっぱりかというか、罪悪感がここまでしてくれたのかと思う。


「気にするな。あれはただの俺のお節介であってただの偽善だから。罪悪感とか抱かれても困るし。だから気にするな。」


「そうですか。では、今日はここで失礼させていただきます。送っていただきありがとうございます。」


「ああ、こっちもありがとう。看病助かった。それじゃ。」


「おやすみなさい」


その後は彼女がマンションの中まで入っていくのを見届けたあと俺は少し散歩することにした。


「もう熱も、無くなったかな。ほんとに白石には感謝しないとな。」


それでも彼女との関係はこれまで。今回は自分のせいで俺が熱をだしたと思い罪悪感から借りを返しに来た。だから俺は勘違いをしたりしたらダメだ。


少しでも期待をすると、その分あとからのダメージが大きくなる。


そんなことは小さい頃からわかっているはず。だから今日あったことは感謝して忘れよう。それが一番いい。


心地いい風が肌にあたる。少し肌寒くなったから俺も家に戻ることにした。


部屋に戻るとあることに気がついた。


「なんで冷蔵庫の中にご飯とポカリが入ってんだよ……。」


どうやら白石が作り置きしておいてくれたらしい。


どんだけ責任感が強いんだか……


これだと色々と白石も大変だろう。今度あったら少し言っておくのもいいかもしれない。あとお礼も。


そんなことを考えながらさっき食べた雑炊の皿を洗い、風呂に入ってベッドに入った。


今日は少しいい一日だったかもしれないな……


そんな馬鹿なことを考えた自分があほらしい。これは罪悪感からきた、ただの恩返し。こんなことを考えちゃダメだ。


そう自分に言い聞かせて俺は眠りについた。


















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