魔法少女戦線

「何諦めてんの歩、あんたらしくないじゃない!」


 目前に迫る死を遮るように、突如何者かが呼びかけきて俺は閉じかけていた瞼を開けた。


「〝ウォーター・カーテン〟! 〝メイクアップ・アイス〟!」


 その掛け声とともに俺の目の前に水のカーテンが現れたと思うと瞬く間に水が氷へと変化し俺に飛んできた無数のナイフを遮断した。


「こちらイズミ。目標地点に到着。歩の手当をして戦闘に入ります」

「イズミ。敵はおそらくウルフだよ。しかもあいつはボスだ。油断してはダメだよ」


 聞き覚えのある声の方へ顔を向けると、ちょうど空から女の子が俺の前に降りてきた。


 彼女は赤いリボンに青のカチューシャ髪型はショートで、水色がメインのワンピースにスカートは白いフリル、右手にはステッキといかにも魔法少女といった服装だ。


 この服装にも確かに見覚えがある


 耳にはインカムがセットしてあり誰かと連絡を取っているようだ。


 ほぼ確信を持って彼女に問いかける。


「その声、その服装にイズミって! お前泉か? 泉菜 栞!」

「いかにも、うんうん私だよ泉ちゃんだよー。ふーなんとか間に合ったみたいだね。ていうかあと一歩遅かったら歩死んでたよね」


 やはり泉だった。だが、襲ってきたあいつといい泉といい科学だけでは到底説明できない異能力を使用している。


 一体何が起きているのか、疼く厨二魂をなんとか抑え付けながら聞かなければいけないことを頭の中で考えていると、


「とりあえず歩の頬の手当をするよ! 〝ウォーター・ヒール〟!」


 彼女が魔法を唱えると俺の傷が一瞬にして治癒した。


「あ、コーラあるじゃんも~らい! 喉乾いてたからな助かるよ~」


 彼女は俺の持っていたビニール袋から目ざとく見つけたコーラを取り出し、蓋をあけてごくごくと勢いよく飲み干していく。


「プハッー。生き返る~。ありがと歩」


 そう言うと、彼女は飲み終わった空のペットボトルを俺のビニール袋に戻す。


 目の前で行われたことに思わず半眼になってしまったが、それはひとまず飲み込んで問いかける。


「泉、俺お前に聞きたいことが山ほどあるんだけど。まずこの状況とか」


 そういうと手を合わせて頭を下げながら彼女はこう返してきた。


「ごめん歩、今はそれを説明してる時間はなさそうかな。また後でちゃんと話すから」

「ああ、分かったよ! とりあえず了解した」


 彼女にもこの状況にも何か理由があるのだろうと察して俺はひとまず従うことにした。


「へいそこの君〜なーんで俺の食事の邪魔してくれちゃってるのかなあ」

《ルビを入力…》

 彼女との話に集中してしまい気が緩みかけたが、謎の男の声で今は襲われている状況だと思い出す。


「あんたウルフのリーダー切矢きりや りょうね。ここでリーダーに遭遇できるなんてラッキーだわ」

「へ~? 俺の名前を知っているんだ、詳しいね。まあいいさ君も今宵のディナーのコース料理に加えてやろう」


 そう宣言すると男は再び先程使った技と同じ大量のナイフを体の周囲に展開して戦闘態勢にはいった。


 それとほぼ同時に泉は空中にジャンプし、魔法を唱える。


「〝バブルショット〟!」


 その掛け声とともに無数の泡が生まれて、男に向かって降り注ぐように殺到する。


「そんなもんで俺の攻撃が止められるかよ!」


 そう言うと、男はナイフを自在に飛ばし押し寄せる泡を容易く貫通させて、そのまま栞のいる方向に直進させる。


「〝ウォーター・カーテン〟! 〝メイクアップ・アイス〟!」


 ある程度予測していたのか彼女は先程使った氷の障壁を貼り、同じくナイフを遮断する。


「まだだよ! 魔法少女を舐めてもらったら困るよ。〝〟バブルショット〟! 〝メイクアップ〟アイス!」


 今度は更に広範囲にバブルショットを撃ち出し、攻撃ではなく空中一帯に張り巡らせ、凍らせることで足場を形成し、縦横無尽に跳ね回り相手を翻弄しようとする。始めて生で見る魔法少女の戦いに俺は目を奪われ夢中になってしまっていた。


「ちょこまかと動きやがって、これならどうだ!」


 今度は大量の刀を出現させて周りに展開し泉のいる方向に飛ばしてきた。


「武器が刀になったところでやることは一緒でしょ」


 彼女は武器が変わっただけの単調な攻撃に違和感を感じたが、チャンスと考え躱しきったところで攻撃に移った。

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