魔法少女戦線2

「今度はこっちの番よ! 〝ウォーター・ランス〟!〝メイクアップ・アイス〟!」


 泉は自分を周囲に生成した8本の水の槍を氷の槍に変化させ、跳び回る勢いを乗せて男に向けて撃ち出した。


「……ん~……こうか……? メイク……いや、〝 オルター・チェーン〟!」


 男は再度展開していた刀の1本を手に取り何かを試すかのようにそう唱えると、刀身を鎖の形状へと変化させ、身を守る様に振り回した。


 彼女が放った氷の槍はそれによって次々と破壊されてしまった。


 「見様見真似だったが試してみるもんだねえ。」

「え、ちょ、それ私の能力のパクリじゃない! 嘘でしょ!?」


 彼女は自分の能力と同じ能力を使われたことにショックを受けて激しく動揺して動きが鈍る。


 男はその隙を見逃してはくれず、更に展開して数を増やした刀を容赦無く飛ばした。


「その攻撃はもう効かないって……! 〝ウォーター・カーテン〟! 〝メイクアップ・アイス〟!」


 動揺が抜けきらない泉は跳び回りながら念のため最初と同じように自分の周囲に刀を遮断するための氷の障壁を貼った。


「甘く見るんじゃねぇ! そう何度も同じ手が通用するかよ! 〝 オルター・ダイヤモンド〟」


 男は障壁の発動を確認した瞬間に数本を残しそれ以外の刀を空中で向かう先を変えて、新たに刀身を変化させる。男の狙いの本命は彼女ではなく、彼女の機動力の元になっている氷の足場だった。


 最硬となった刀は氷を鮮やかに切断し次々と周囲の足場を切り裂いていき、あっという間に破壊し尽くされてしまう。栞は足場を失いやむなく地上へ着地した。


 男は放った刀を手に取りうっとりとした表情で舐めた。


「さすがダイヤモンド! 切れ味最高!素晴らしい! 素晴らしいぜぇ」

「さすがにウルフのボスね。でももう終わらせるわよ!水圧最大で……! ウォーター・プレッシャァァァーッ!」


 これ以上長引くのは危険だと感じた彼女は、ステッキを掲げそう叫ぶと大量の水が生成されステッキの上で集まり、巨大な球体を形成してゆく。


「いっけぇぇぇー!」


 そう叫びながら男の方向に放つ体勢に入り、今まさにステッキの先から放たれようとしていた。


「ハハッ、甘いねぇ!」


 そう言うと男は刀を消して一瞬で周囲に拳銃を6丁出現させ、俺へ向けて手を使わず引き金を引いた。


 銃の出現を確認した瞬間狙いを悟った彼女は魔法を自分の制御から切り離し、銃が向けられた方向に全力で地面を蹴り砲弾のような速度で飛び出した。


 途中で投げ出された〝ウォーター・プレッシャー〟は狙いから大きく逸れて、男の方向とは別の位置に向かっていき、着弾時には轟音を響かせながら地面揺るがせて道路を割った。水圧が本当に高いことが想像できた。


 さすがの男もこれを喰らっていたら、タダでは済まなかっただろう。


 しかし、彼女はそんな攻撃を途中で放り出し俺の目の前にいた。


 この1年口を聞いてないし、こんな俺を見限ったと思っていた。


 彼女は飛んでくる銃弾を前に、迷いのない顔で手を広げながら俺の前に立ち全身で庇ったのだ。


「歩、今までごめんね」


 そう彼女は呟いて。


 銃弾が彼女の右手、左肩、右足、心臓の辺りに直撃した。


「泉ー!泉しっかりしろ!」

「フハハハハハハ!泉ちゃーん、俺が刃物しか出せないと思ったあ?残念だったねー俺様は人殺しの道具ならなんでも出せるんだよねぇ。」


 男は浮いている銃の中から1つを手に取り、舌で舐めまわしながら嘲笑ってきた。


 俺は銃弾を受け血塗れで倒れた彼女の肩を抑えながら必死で呼び掛ける。


「泉!泉死んじゃダメだ! 俺にはまだ聞きたいことが沢山あるんだ!」


 俺は傷口から止まらずに出血をしている彼女に何度も何度も声をかけた!


 何度も声をかけ続けていると、彼女は咳をし血を吐きながらながらも今にも消え入りそうな声を口を開き絞り出した。


「歩……もう私ダメ……みたい……歩……これを……持って……逃げて!」


 彼女は痛みに我慢しながら、ゆっくりと口を動かして俺に話しかけてくる。


 そういうと彼女は2通の便箋を渡してきた。


「これ……に……後で目を……通して……。」


 弱々しい声で必死に話しかけてくる彼女に涙を我慢せずにはいられなかった。


 俺の目から涙が零れ落ちる。


「泉、泉こんなのってないだろ……。」

「最……後に……1つ……だけ……お願いしても……いいかな?」

「ああ、いいよ……」


 目から零れ落ちる涙をパーカーの袖で拭きながら答えた。


「キス……して……ほしい」

「ああ。」


 俺は泣きながら彼女の口元に唇を重ねた。その後、身体を思い切り抱きしめた。


「歩……大……好……き」


 彼女はキスを終えるとその言葉を残し、一瞬笑顔になって、そっと瞼を閉じた。


「ギャハハハハハハ! 甘い、お人好しすぎる! 好きな男の子を庇って死にましたーって、そのまま攻撃を続けていれば俺様に少しはダメージを与えられたってのにギャハハハハハハ!」


 男が泉の行動を嘲笑った。それを聞いて俺は心のそこから怒りが湧いた……かつてないほどに。


「ではでは今日のディナーの本当のメインディッシュ、龍ケ崎 歩くん頂きマース!」


 男は舌で刀を舐めながらそう言い残すと再び戦闘態勢入ったようで先程の刀を体の周りに展開させた。


「てめえ、絶対に許さねえ!」


 俺は怒りを震わせながら奴に言い放った。


「戦う力もない歩君が威勢のいいこと言いちゃって」


 奴は俺を馬鹿にしてきた。当然だろう。俺には泉みたいに戦う能力も揃ってないただの厨二病だ。ただの厨二病になにができる……!


 弱い自分に対しての怒りと悔しさが膨れ上がった瞬間、右手が巻いた包帯とパーカーの袖ごと燃え盛った。


「これはまさか……!」


 俺はこれが泉や奴のような能力だと直ぐに気づいた。しかし、力の使い方が分からないのでどうしようもない。


「どうすれば……」

 

頭の中で必死に考えてる時だった。泉のインカムから誰かの声が聞こえた。


 俺は泉からそっとインカムを外し、それを耳元に当てた。


 ノイズが入ってかなり聞こえづらいが、誰かの声が聞こえる。


「キ#@##@…ミは",.&モウ#@##,シッテイル!'ハズ#シン#@#ジロ!」


 それを最後に通話が途切れた。


 俺は深呼吸し、今までに起きたことを頭の中で整理した!


 泉の魔法少女の姿。奴の特殊な有り得ない能力。


「そうか! 分かったぞ! 何も考える必要はなかったのか!グハハハハハハ! 俺こそは龍ケ崎 歩! 龍の血を右手に宿し者。今こそ我が力解放せん!」

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