ドラゴンブレイカー

 部屋に戻り再びPCの電源を入れ〝ドラゴンブレイカー〟にログインする。


 ログインして間もなくレイド戦に参加しないかとギルドメンバーに誘いをもらった。


 俺に声をかけてくれたのはお嬢というHNのプレイヤーと博士という方だ。


 2人は週末にいつも誘いをくれて、このゲームを始めたばかりの時からお世話になっている。


 レイドボスの討伐が終わると、チャットにニュースで流れていた例の事件についての話題を書き込んでみた。


「そういえば、ニュースで見たんだけど俺の地元で殺人事件がありまして」

「あ、石原市の例の事件ね。わたくしもさっき見たわよ」


 お嬢さんが反応をくれた。どうやら彼女もニュースに目を通していたみたいだ。


「あ、その事件ね。僕も知っているよ。実に興味深い話だよね」


 博士さんだ。この人は昔から話が上手くこう言った事件等にも関心がある。


「遺体の状態から同一犯とは考えにくい、でも全て殺し方は違えど刃物による損傷がある。銃殺や他の死因はなしか……にしても一日にこんなに事件件数があるなんて……やっぱりなにかあるね」


 やはり彼は洞察力が鋭い。俺の思ってもみないことをたくさん例に挙げてくれる。


 そこから雑談しながらゲームをプレイし時刻は0時過ぎ、流石に少し小腹が空く頃だ。


 俺は2人に少し席を外すとチャットに書き残し、黒に赤のラインが入ったTシャツに下はジーンズ姿に着替え、黒いパーカーを羽織り財布を持って家を出た。


 俺は家から徒歩10分ほどのコンビニストアに入り、カップヌードル、ポテトチップス、コーラを手に取り会計に出した。


 レジでお金を支払い、購入したものが入ったビニール袋を左手に持ち店を後にした。


 右手には常に龍の血が目覚めないよう包帯をまいてるため左手で持つことが決まっていた。


 普通の人間ならばどちらの手にビニール袋を持つか選択を迫られるが俺にはそれがない。


 言わば普通の人間より迷いがないということだ。しかし、俺はその直後に選択を迫られた。


 いやそもそも家から出た時も迫られたんだがな……


 説明しよう! 家からコンビニまでは2通りのルートがある。1つは人気がない空き地を通るルートと遠回りになるが大通りを通るルートだ。


 この選択をまず家を出た直後の俺は迫られ後者を選択した。何となく嫌な予感がして遠回りをしたのだ。


 そしてその選択を再度迫られている。


 迫られているというか思い出しただろ!それ……と心の中の自分自身にツッコミをいれた。


 そう考えながらも早く家に戻り、ゲームに戻りたい俺は前者を選択した。


 家からコンビニまでは前者5分。後者10分。効率厨でゲーム好きの俺が前者を選ぶのは当然だった。


 人気の無い道を早足で駆け抜ける


「あーあ」


 少し早足で歩いたせいでビニール袋に入ったポテトップスが地面を空き地の前で落として落ちてしまった。


 めんどくさく頭を掻きながらも俺は拾おうとして、手をかけた次の瞬間、何かが俺の頭上から飛んできて、一瞬にして俺の頬を引き裂いた。


「グハァァァァァァ……痛え」


 俺は必死に出血した頬を押さえた。俺の頬を切り裂いたのは恐らくナイフだ。でもあまりの速さに捕えられなかった。


「チッ、1発で仕留められたと思ったのに君運がいいなあ」


 その声とともに建物の上からグレーのスーツを着て目が鋭いパーマの男が俺の前に姿を現した。


 身長は175センチくらいで細身だ。


「ま、どうせ殺すし変わらないよな。いやでも俺の攻撃を受けて生きているのが腹立たしいなあ」


 男は腕を広げながら言った。


「お前は何者だ!」


 俺は痛みに耐えながらその男に質問した。


「何者かと言われてもなあ。君はもう死ぬから教える必要は無いかな」


 腕を顎に当て首を傾げながら男は言った。


 この時ばっかりは普段威勢を放っていた自分が本当に何も出来ないと感じ嫌気が刺していた。


「言っとくが君に恨みはない。でも悪いね僕の私利私欲と崇高なる目的のため死んでくれたまえ」


 そういうと男の周りに無数のナイフが出現しこちらに直進で飛んできた。


 ああ俺は死ぬんだと嫌気が差す、そう考えながらゆっくりと瞼を閉じた。

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