第49話 同じ色の空

 今まで部活を休むことはなかったのだけど、今日の俺では部活にならなそうだったので休ませてもらった。

 家に帰宅しても着替えもせず、ベッドから天井を眺めていた。

 視界は天井を映しているけど、実際は見ていない。

 俺はずっと浅野、三樹のことを考えていた。

 相坂さんも昨日の様子は気になるけど、今は二人のことのほうが気になってしまっていた。


 浅野は俺に答えを求めてきてはいなかったけど、だからといってなにも考えないなんてことはできない。

 あれだけ気持ちをぶつけられているのに、なにも考えないなんて見て見ぬ振りをするようなものだ。

 だけど浅野のことをどれだけ考えても、答えが出ないことも理解していた。



 ベッドから見える空の色から、ある程度の時間が伝わってくる。

 オレンジ色が強くなっていて、あと一時間ないくらいで空の色は青くなっていくんだろう。

 俺は制服を着替え、お米を炊いてから外へ出た。

 なんとなく、そうしたかった。


 向かった先は公園。

 三樹と付き合っていた頃によく来ていた。

 そして、彼氏としてなにもできなかった俺を許してもらい、俺たちの関係が終わった場所でもある。


 公園の中に入り、俺はベンチに座った。

 ベンチからの景色は見慣れたもの。

 いつも放課後に三樹と来ていたこともあって、空の色まで同じ。

 俺の思い出と、なにも変わらない景色。

 ただあの頃と違うのは、俺がイジメられてボッチになったのと、三樹との関係がかわっていることだった。


 三樹がフランスに行ってから、俺は三樹のことを忘れたことなんてない。

 三樹の学校が終わって、帰宅してからのインターネット通話は毎日の楽しみだった。

 フランスとは七時間の時差があるから、俺は寝る直前になって睡眠不足になったことが何度もあった。

 それでも離れてしまった俺たちの隙間を埋めるのに、それくらいは必要だった。


 今思いだすとちょっと恥ずかしい。

 あの頃は告白でもないのに、お互いで好きだと何度も言っていた。



「キス……したいね?」



 なんて三樹が言っていたこともあった。

 ふとそんなことを思い出し、この前のキスが頭をよぎる。

 思いがけないことではあったけど、あの頃言っていたことが現実になってた。

 まぁ、キスされたのは頬で、俺はされるだけだったんだけど。


 浅野のことを考えても、どうしても三樹のことがチラついてしまう。

 浅野と付き合ってもいいんじゃないかと少し思っているけど、どうしても三樹のほうに向いている気持ちが振り返ってはくれない。



「こんなに女々しかったのか……」



 別れた彼女を思い出して、付き合っていた頃のことに浸るなんて……。

 仮に三樹が俺のいる高校を選んだのだとしても、俺のために部活を作ったのだとしても、それが友達以上の気持ちとは限らない。

 三樹が俺に文句を言いたかったのはあり得ない話ではないし、部活にしても俺がボッチになっていたからかもしれない。

 付き合っていた恋人のそんな状況を見てしまったら、そういう行動になったとしてもおかしくないと思う。

 俺だって三樹のそんな状況を見てしまったら、なにかできることをしていたんじゃないかと思う。



「キス、挨拶みたいなものだったのか?……」



 頬とはいえ、一度されてしまったこと。

 もうそういうことはないだろうと思うと、なんだか気持ちがぎゅぅっと締め付けられるようだった。

 ベンチに横になると、まだ少しだけオレンジ色の部分がある。

 だけど星が光り始めていて、空はだいぶ青くなり始めていた。

 考えても考えても、なにを考えているのかすらよくわからない。

 ずっと同じところをぐるぐると、ただ考えているだけのような気がして少し休むことにした。



「優也?」



 目を開くと、俺を覗き込む三樹がいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る