第48話 三樹の気持ち

 相坂の言葉に、視線に、三樹は動揺していた。

 落ち着きを取り戻すためかのように、胸の前で三樹の右手が左手を、左手が右手をぎゅっとしている。



「どうって……私たちはもう、別れてるし…………」


「私は先輩のこと、本気です」



 浅野が宣戦布告という雰囲気で告げた。

 相坂と浅野の目が三樹を見つめる。



「私、昨日真辺くんとデートしました。それで、告白するつもりでした」



 相坂の言葉に、一番目を見開いて驚いたのは浅野。

 三樹はさっきと変わらずに動揺しているようだった。



「やっぱり相坂先輩、ライバルだったんですね。

 なんとなくそんな感じはしてました」



 相坂は浅野の顔見て、少しだけ悲しげな笑顔を向けた。



「うん、でもできなかった。私はもう脱落」


「え? どうしてですか?」



 少しだけ部室の空気が緩む。それは浅野と三樹の雰囲気がそうさせていた。



「三樹さん。このオンライン小説部は、真辺君のためにあるんじゃないですか?」


「…………」


「え? どういうことですか? 三樹先輩、そうなんですか?」



 相坂の言葉に、ますます動揺しているような三樹の瞳。

 だけど相坂は言葉を続けた。



「まだ三樹さんも、真辺君のこと好きなんですよね?」


「――――」


「部活は確かに、真辺君のことがあったからっていうのは、ある」



 少しうつむきながらも、三樹が口を開いた。



「真辺君には、中学の学校生活の思い出ってあんまりないと思う。

 イジメのせいで、全部それになっちゃってるかもしれない。

 この高校でもそれは変わらなくて……。

 だから、新しい居場所があれば、それを変えられるかもしれないから」


「それって……」



 浅野が、途中までなにかを言いかけて席を立った。

 自然と浅野に二人の視線が集まる。



「今日は帰ります…………三樹先輩、早くしないと、私が先輩のこと取っちゃいますよ」



 振り返りもせずに言うと、浅野はそのまま部室を出ていった。

 浅野が出ていった部室には、グラウンドから聞こえてくる部活動の声。

 吹奏楽部だと思われる音楽が届く。



「私は自分で納得して諦めてしまいましたが、今のままでいいんですか?」



 相坂が三樹に言うが、そこにいる三樹はいつもの凛とした三樹とは違っていた。

 動揺と不安が混ざったような目をしている。

 なにかを言おうとしても、言葉は出てこない。



「私は二人の仲がまだ続いていると思ったから諦めたんです」



 相坂の言葉が意外だったのか、三樹が怪訝な顔を向けた。

 なにを言っているの? というような顔。

 そんな三樹のことは気にしていないかのように、相坂は続けた。



「私、昨日告白まで考えていたんですよ? 今までの人生で初めてです。

 ですが真辺君から三樹さんとのことを聞いて、私が入り込む隙間はないと思いました。

 気持ちがまだあるのなら、三樹さんが動かないとたぶんダメです。

 真辺君は負い目みたいなものがあるみたいですので」



 気になる部分があったのか、うつむいていた三樹が顔をあげた。



優也・・が負い目に感じるところなんかないよ」


「海外に行ってしまった三樹さんを一人にしてしまったことが、負い目に感じているみたいです。

 三樹さんは真辺君のこと、どう思っているんですか?

 浅野さんじゃないですが、早くしないと誰かに取られちゃいますよ?

 私のお節介はここまでです」



 そういうと、相坂も部室をあとにした。

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