第47話 三人の部室

 相坂さんを送った帰り、俺はいくつかのことを同時に抱えてしまったような気持ちになっていた。


 オンライン小説部のことを話した辺りから、相坂さんの様子は少しおかしかった。

 別れ際に見た相坂さんは、いつ涙を流してもおかしくない目をしていた。

 なにかがあるとは思う。だけどそれがなにかはわからない。

 しつこく訊くのもいいとは思えなかった。


 浅野のこともある。浅野は俺に、明確な好意を向けてきている。

 それはもう、わかりやすいくらいストレートに。

 浅野の気持ちは素直にうれしい。

 浅野は贔屓目を抜きにしても可愛いと思う。

 そのうえあんなまっすぐに気持ちを向けられては、うれしく思わないわけがない。

 たぶん浅野と付き合えば、カースト最下層にいる俺でも楽しさを感じることができる。

 でも、今の俺には気になることがある。


 さっき相坂さんが言っていた、三樹がオンライン小説部を俺のために作ったという話。

 三樹にオンライン小説部が必要だったのか? という話は頷ける部分があったのは確かだった。

 以前三樹が、内申書的な話はしていたけど。

 渡辺先生の言っていたこともあるし、この前のこともある……。

 三樹については、考えてもわからないことしかなかった。

 もしかしたら、考えるだけ無駄なのかもしれないとも思う。

 今考えているようなことは、最初からなにもないのかもしれない。


 家に帰ってからも、俺は答えが出ないことをわかっていながら考えてしまっていた。




「真辺君? そんなにジッと見てなに?」


「あ、ごめん。なんでもない」



 朝学校の席で話しかけられたが、俺は昨日考えていたことを今も考え続けていた。

 そのせいでぼぉーっとしていたのもあり、三樹に呼ばれて無意識に見てしまっていた。



「夏休みの部活動について話そうと思うんだけど、今日の放課後空いてる?」



 リア充とは程遠い俺が、バイト以外で空いていないわけがない。

 元々月曜日は部活の日でもある。

 なのだが、昨日の今日でもあるので次回にしてもらうことにした。



「ごめん」


「別に謝るようなことじゃないけど、なにかあった?

 私でよければ聞くよ?」


「ありがとう。でも、大丈夫だから」




 その日の放課後、オンライン小説部の部室には女子三人が集まっていた。

 三人共机にノートパソコンを出してはいるが、みんな電源は点いていない。



「先輩来ないんですかぁー。部活で会えると思ってたのに」



 やる気がなくなってしまったのか、浅野は不満を口にしてノートパソコンの上に突っ伏した。

 手が放り投げられている感じで、完全にだらけているような雰囲気だ。

 相坂はそれを見て苦笑いを浮かべていた。



「真辺君は今度聞くとして、夏休みの活動について二人に聞いておきたいのだけど」


「あっ! もしかして合宿とかしちゃいます?」



 突然浅野が顔をあげて、三樹に問いかける。

 いつもよりも少し目が大きくなっていて、興味津々なことがうかがえた。



「でも執筆が活動だから、合宿っていうより缶詰?」


「なんかそういうの、部活って感じがしますね。それに缶詰って、なんかそれっぽいですよね」



 相坂もまんざらでもない様子で、幾分声のトーンがあがっている。



「合宿ねぇ。そういうのも有りではあるよね。

 部活なんだから、そういうイベントも学生としてはあってもよさそう」


「でも、部活として動くのであれば、先生も必要なんじゃないですか?」


「えぇ~、私たちが執筆しているところに先生がいるとか、ちょっと微妙じゃないです?」


「「…………」」



 数秒の間部室は沈黙になり、それが三人の考えを表していた。



「別に部活として動かなければいいんじゃない?

 私たちが集まって活動すれば、部活として動いていなくても実質同じことでしょ?

 両親に話を通さなければいけないとは思うけれど、二泊三日くらいなら話になるんじゃないかしら?」


「それいいですね! なんか楽しくなってきましたね。

 先輩も今日来ればよかったのに。なにしてるんですかねー」


「真辺くんに話したとき、珍しくぼぉーっとしてなにか考え事していたみたいだった」



 優也の様子を聞いた浅野と相坂から笑みが消え、考え込むように無言になる。

 その様子を見て三樹も黙っていたが、最初に口を開いたのは相坂だった。



「三樹さんは、真辺くんのことどう思っているんですか?」

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