第39話 鈍感じゃない
夕食を食べてからゆっくりとした時間を過ごすため、俺は長風呂をすることにした。
今日はなんか疲れた。
いろいろなことがあったような気がしてならない。
三樹と小松のことに始まり、その周囲の気持ちや、オンライン小説部のこと。
告白された人数は、俺だけがゼロ。
他の三人はみんなあるって、少しおかしいと俺は思う。
そんなに告白ってされるものか?
もう気持ちが抑えられなくて告白という選択肢を取るということだとしたら、それだけ想われてる人数ということになる。
「すげぇな……」
ボッチの俺とは、真逆に位置していると言っても過言ではなかった。
そんな俺に浅野は、少なからず好意を向けてくれている。
はっきりと好きという言葉を言われたわけでも、ましてや告白をされたわけでもない。
それでも好意を持っているということは言われた。
半分告白のようなものだったような気はするけど。
あれだけまっすぐに見られれば、こっちだって否が応でも見るようになってしまうというもの。
そして俺から見た浅野 舞という女の子は、一見ふざけているように見えるけど、実際は真面目な女の子だ。
それは服装や、日々の嗜みからも見て取れる。
投稿している小説の話などをしているときの考えなどを聞いていても、ただ書きなぐっているわけではないことが伝わってくる。
端的に言っていい子だ。
自意識過剰かもしれないけど、もしかしたら相坂さんも俺に興味を持っているかもしれないと思っている。
浅野みたいにわかりやすいなにかがあったわけではないけど、随分話をするようになった。
それに一年生の頃から知っている相坂さんは、ちょっと内気な口下手な女の子。
そんな女の子が、三樹と浅野の前で出かける約束のことを口にしていた。
あくまで可能性の話で、単なる勘違いということも考えられるけど、しぐさや態度からそういう可能性がないわけではないような気がする。
ここまで考えて、ホント自惚れが過ぎないか? と思ってしまった。
でも俺は鈍感ではない。むしろ敏感な方ではないかと思っている。
この数年イジメられていたことで、いろいろ敏感になっているのは実感していた。
さっきのことを考えればラブコメ的なことも頭を過るけど、それはまずないなとその考えを打ち消す。
ラブコメといえば、主人公がおっちょこちょいとか、鈍感だとかっていう属性がある。
俺はそこまでおっちょこちょいではないと思うし、少なくとも鈍感ではないと思う。
だから俺にラブコメなんて物はない。
三樹は……なんなんだろう…………。
俺のせいで、俺達の関係は自然消滅という終わり方をした。
実際に一緒に過ごせたのは三ヶ月ないくらい。
三樹に告白したことも懐かしい。
俺から告白しておいて、俺から連絡を取らなくなったのだからふざけた話だ。
さすがに再会した初日に話がしたいと言われたときは驚いた。
でもこうして考えてみれば、とても三樹らしい。
自分の意見をしっかり主張するし、三樹はすごくまっすぐな気持ちを持っている。
だから今日言っていたことも事実なんだと思う。
今までで一度だけ好きな人ができたことがあるの
付き合っていた期間は短かったし、こんな終わり方ではあったけど、この事実だけでもよかったと思える。
なにもなかったわけじゃない。
お風呂から出て部屋へ戻ると、スマホに着信があった。
浅野と相坂さんから、SNSでメッセージが届いている。
たぶん浅野はいつも通り、特に意味のないお喋りだと思うけど。
そう考えた俺は、まず相坂さんから返信することにした。
三樹さんとお付き合いしていたのは、本当ですか?
どう返信したものか……。
これは事実だし、三樹がすでに言ってしまっていることでもある。
すぐに返せそうな感じではなかったので、浅野の方を先に返すことにする。
三樹先輩って、元カノなんですか?
書き方が違うだけで、言っていることはまったく同じ。
少し気になる部分はあるけど、結局事実を答える他にないのでサッサと二人に返信した。
相坂さんからは、知らなかったからちょっとビックリしちゃって、っと返信がきた。
浅野はらしいというか、先輩元カノなんていたんですねー、ショックですー、だった。
ショックってなんだ? 俺はまだ童貞だとか言えばいいのだろうか?
そんなことあるわけがない。
そんなことをメッセージしたとなれば、それこそ完全に変態になる。
まぁ、相手が三樹ということもあるのかもしれない。
実際お昼のことはかなりの早さで広がっていたようだし、俺たち以外もこのことを今話している人がいるかもしれないのだ。
あれだけインパクトのある出来事であったことを考えれば、二人がメッセージをしてきたのもおかしくはないように思えた。
翌日、俺はいつも通り自転車を駐輪場に停めて駅へと向かう。
駐輪場から駅までは三分くらいの距離だ。
いつもと同じ人の流れに混ざって俺も駅へと歩いていると、駅の出入口に見知った女子の姿。
「なにしてるの?」
「「……」」
なぜか浅野と三樹がいた。
「私が来たときには浅野さんがここにいたから、見て見ぬ振りもあれかと思って声をかけたの」
どうやら三樹も俺と同じ状況らしい。
「朝から可愛い後輩が、先輩と一緒に登校してあげようかと思ったんですけどぉ、三樹先輩も最寄りの駅がここなんて知りませんでした」
浅野にしては珍しく、苦笑いでことの成り行きを説明してきた。
「三樹さんとは同じ中学で、同じ地元だから」
「せっかくですから、三人で登校しましょう!」
俺が高校に入って、誰かと学校に行くなんて初めてのことだった。
電車の混雑具合はギュウギュウという程ではない。
いつもとこれは変わらないが、少しだけいつもと違う。
他にも桜花高校の学生はいるのだが、いつもと違って視線をチラチラと向けられる。
三樹がいるからか、浅野がいるからか、それとも二人がいるからか。
あと可能性があるとするなら、昨日のことあたりだ。
俺たちが電車を降りると、当然桜花高校の学生はみんな降りる。
ホームから改札までの間は特に視線を感じた。
誰かとの初めての登校は、正直とても楽しめるようなものではなかった。
「相坂先輩!」
浅野の声に視線を移すと、改札を出たところで相坂さんがいた。
俺たちが相坂さんのところに行くと、向こうも驚いているようだった。
「みなさん一緒だったんですか?」
「うん。浅野が俺と三樹の地元の駅まで来てて、あとから三樹さんと俺がたまたま合流する形になった感じ」
「そ、そうだったんですか。部活のみんなが朝集まるなんて、ビックリですね」
俺はあまりの偶然に、少しだけ今までとはなにかが変わったような気がしていた。
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