第38話 恋バナ

 授業終わって放課後になると、知らない男子が俺を訪ねてきた。

 月曜日はオンライン小説部がある日だが時間はかからないからと言われ、三樹たちには先に部室に行ってもらうことにした。

 俺は訪ねてきた男子数人と廊下の端の方に向かう。



「俺たちは三年なんだけど、いきなり悪かった」



 見覚えのある顔が一つもないし、一年生という感じでもなかったので察しはついていた。

 とはいえ、三年生が俺を訪ねてくる理由は見当がつかないんだけど。



「あのさ……噂で聞いたんだけど、真辺君が三樹さんの元カレっていうのは本当か?」



 マジか……。広がるの早過ぎないか?

 この質問は、三年生にもお昼休みのことが広まっているということを意味している。

 しかも当事者の三樹や小松のことではなく、俺のことを訊いてきていることを考えれば、ほぼ性格な状態で噂になっていると考えられた。 



「それをなんで俺に訊くんですか?」


「え? いや……」



 なんでかはわからないけど、なんか気分の悪い質問だ。

 たぶん三樹に少なからず好意を持っているということなのだとは思うけど、俺に訊いてくるというのが不愉快に感じた。



「真辺君、まだ三樹さんのことが好きだったりしない?

 噂だと、オンライン小説部で一緒だって聞いたし」



 別の男子が訊いてきたが、どうしてそんなことを見ず知らずの奴に話さなければならないのか。

 好意を持っていると推測しているのに、こんなことを思う俺は性格が悪いのか?

 なんて思ったりもするけど、それでも不愉快だという事実は変わらなかった。



「俺のことは関係ないですよね。話がそれだけなら部活に行きたいんですけど?」


「こいつが三樹さんのこと好きなんだよ」



 どうやら最初に質問してきた男子が、三樹のことを好きらしい。

 三樹は容姿もいいし、性格だって悪く――。

 ん? いや、お昼休みのアレは……どうかな。

 まぁでも、三樹がモテるのは昔からだ。

 でも、俺のところに来るのは違うと思う。



「こっちも言ったんだから、そっちも教えてくれよ」


「勝手に喋ったのはそっちじゃないですか。

 見ず知らずの人と話すようなことじゃないと思いますので、すみませんが俺はもう行きます。

 このことは話したりしないので、そこのところは安心してください」



 俺はそのままオンライン小説部の部室へと向かった。

 ドアを開けると、三人がビクッと反応している。

 そんなに驚かせるような開け方をしたわけではないと思うけど、間が悪かったのかもしれない。



「さっきの男子たち、なんだったの? 知り合い?」



 三樹が三人の代表というような感じで訊いてきた。



「俺が小松とかから、示談で慰謝料もらったのか訊かれた。

 お昼のことが噂になってるらしい」


「あ~、一年生の間でも噂になってましたよ」



 三樹と相坂さんがえ? っというような顔をしている。

 たぶん俺もさっき同じような顔をしていただろうから、二人の気持ちはわかるような気がした。



「噂になるの、早いですね」


「フッたのが三樹先輩でしたし、公開処刑みたいなものでしたからね」


「人聞きが悪いこと言わないで? あんな人前で絡んできたから、それに対処しただけよ」


「いえいえ、三樹先輩? お昼のことで、一年生の間ではますます人気になってますよ?」


「えぇ? なんでよ?」 


「もともと三樹先輩は人気でしたけど、真辺先輩のことで人柄も好かれてました。

 それで今日ですよ? 上目遣いが絡んできたのをバッサリです」



 ……いったいいつから小松は上目遣いなんて名前になったんだ。

 まるでなにかの二つ名みたいだ。



「三樹先輩?」


「なに?」


「もう告白とか、されたことあるんじゃないですか?」



 一瞬不安そうな三樹と目が合って、すぐに逸らされた。



「そ、そんなこと別にいいじゃない」


「あ~、やっぱりされたことあるんですね? 教えて下さいよぉ」


「浅野さんだって、されてるんじゃないの? それと同じよ」


「私は高校に入ってから二人です。それで? 三樹先輩は?」


「相坂さん、浅野さんと止めてくれない?」


「三樹さんモテるから……私も聞きたいかも」


「なんでぇ……ほら? 男子の真辺君もいるし……」


「じゃぁみんなで言いましょう! 相坂先輩と先輩はどうですか?」



 なんだこの流れ……。

 浅野の提案で、みんなが告白された人数を言うなんてことになってしまった。

 そんなに告白ってされるものなのだろうか?

 俺がちょっとおかしいだけなのか?



「わ、私は一年生のときに……二人」



 耳まで真っ赤にして、相坂さんが俯きながら答える。

 恥ずかしいからか、両手はスカートを握り込んでしまっていて、二の腕が胸を寄せる形になってしまっていた。



「先輩? どこ見てるんですか?」



 つい目がいってしまっただけなんだけど、浅野に注意されてしまった。

 ふと三樹とも目が合って、ちょっと顔が怒っている。

 まぁ、女子の胸に目がいってしまったのだからしかたないと思った。

 むしろ気持ち悪いと言われなかっただけマシだろう。



「一応不公平になっちゃいますから、先輩にも訊いてあげますね?」



 そんな気遣いは要らない。なんで部活に来ているのに、こんなガールズトークに参加しなければいけないのか。

 俺はできるならこの場から逃げたかった。



「俺はずっとボッチだったんだから、告白なんてされるわけないだろ」


「そんなこと気にしちゃダメですよ! 今は私がいるじゃないですか!」


「別に気にしてはいないから、俺が可哀相な奴みたいに言わないでほしい」


「で? 三樹先輩は?」



 妙に浅野と相坂さんの三樹に向ける視線が真剣な気がする。

 女子はこういう話は好きだし、こういうものなのだろうか。



「――人……」


「「「――」」」


「五人……でも断ったよ?」



 このあと浅野はなんとかその五人が誰なのかを聞こうとしていたが、それに三樹は答えなかった。

 そして部活動はなにもしないという結果に終わった。

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