第40話 二人っきりのお昼休み
お昼休みは朝と違い、みんなが集まることはなかった。
浅野がうちのクラスに来ることがなかったので、三樹と相坂さんはいつもお昼を一緒にしているグループでお弁当を食べている。
お昼休みが始まった直後はチラチラと視線を感じたけど、お弁当を食べ始めてからはそれもなかった。
みんな俺に注目するというよりも、ボッチの俺が誰かと一緒にいるということ、もしくは一緒にいた誰かに注目していたということなのだろう。
ただ三樹のグループからは、ちょくちょくと視線を感じた。
ヒソヒソと話しながらも、若干黄色い感じの声が聞こえてくる。
昨日の今日なので、きっとそれ関連の話でもしているのだろう。
昨日のもう一人の当事者である小松は、今日は学校を休んでいる。
さすがにあの状況、三樹の言葉が堪えたのかもしれない。
俺はお弁当を食べ終え、サッサと教室をあとにした。
なんとなく落ち着く。
いつものルーティーンだからだろうか?
そんなことを思うと、少しおかしくなった。
教室にいると絡まれてしまうのでしかたなく教室を出ていたというのに、それが今は落ち着くとか思っているのだから。
いつもの場所へ向かうと浅野がすでに来ていて、こっちに向かって手を振っていた。
「こっちに来てたのか」
「はい。あれぇ? もしかして、教室に私が来てくれるんじゃないかって期待しちゃってました?」
ニマニマして俺を覗き込んでくる。
「朝のことがあったから、もしかしたらお昼も来るんじゃないかってヒヤヒヤしてたんだよ」
「ヒヤヒヤってなんですか! こんな可愛らしい後輩が先輩に会いに来てくれたらうれしいでしょ?」
「俺はお弁当を食べたら、さっさとここに来たいから一人のほうがいい」
「えぇ~、それ酷くないですかぁ? でも大丈夫ですよ?」
「なにが? なにが大丈夫なんだ?」
「三樹先輩、元カノじゃないですか?」
「まぁ、そうだな」
「私が行っちゃうと三樹先輩も来ちゃうんで、これからは極力お昼休みは行かないことにしたんです。
ここなら先輩と二人っきりでお昼休み過ごせそうですし」
なるほど。今日はそういう考えがあって、教室には来なかったらしい。
「先輩、三樹先輩とはどうして別れちゃったんですか?」
「なんでそんなこと言わなきゃいけないんだよ」
「だって部活も一緒じゃないですか? 部活作るとき、三樹先輩から先輩のこと誘ってましたし。
ん? なんか誘うって、エッチな感じしますね?」
「しないよ。そう感じるのはお前だけなんじゃない?」
「まぁそれはいいんですけど、教えて下さいよ?」
「イヤだよ。普通わざわざ別れた話なんてしたくないだろ」
俺はてっきり浅野は不満そうな顔をして食い下がってくるかと思っていたのだけど、そんな俺の考えとは違う反応を浅野はみせた。
不安そうな顔、不安そうな瞳を俺に向けてくる。
「先輩? 私の気持ち……わかってますよね?」
「…………」
「教えて、くれませんか?」
いつもふざけた感じだけど、浅野は元カノである三樹の存在に不安を感じている気がした。
俺にまっすぐに向けられた気持ちを考えると、ただ俺が話したくないというだけの理由で話さないのには負い目のようなものを感じた。
別に最近別れたというわけでもなく、すでに終わったこと。
昨日三樹だってそう言っていた。
もう付き合っていたことは知られてしまっているので、このまま話さないのは隠しているような感じに思えた。
「付き合っていたのは中二の頃で――――」
俺が中二のときに告白して付き合ったこと。
その後三樹が、お父さんの転勤でフランスに行ったこと。
それから俺がイジメにあい連絡できなくなって、自然消滅してしまったことを話した。
「そのあとは浅野も知ってる感じかな。三樹が切っ掛けをくれて、イジメからは脱却することができた」
「……先輩は私と違って、長い期間イジメにあっていたんですね」
「まぁ……短くはないかな」
「先輩、三樹先輩に連絡できなかったこと、気にしているんですか?」
「…………まぁね。彼女がフランスで寂しがっているのわかってて、連絡しなかったんだから気にはなるよ」
「まだ好き……だったりするんですか?」
「三樹は他の学年からも人気があるような奴で、それに比べて俺は何年もボッチやってる奴だぞ? それにあれは、俺が終わらせたようなものだから」
「……先輩! 今度私とデートしましょう!」
「いきなりなに言ってるんだよ」
「いきなりじゃないですよ。それにデートしたら、私の魅力に先輩が気づくかもしれませんし?」
少し長く話し過ぎたようで、チャイムがお昼休みの終わりを告げる。
結局今日もお昼休みはお喋りで潰れてしまうことになった。
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