第29話 傷跡
三樹が来てくれた翌日も、俺は学校を休むことになった。
だが熱自体は三樹のおかげでかなり下がり、二日で復調することができた。
それからすぐ学校はテスト期間に入り、俺はそれなりの手応えを持ってテストを終えた。
「三人共自分のページを開いて」
三樹の指示で、俺たち浅野と相坂さんは投稿サイトを開く。
みんな作品が一つ投稿されている状態だ。
それぞれの作品をすでに読んできていて、当然俺も読んできた。
浅野は悪役令嬢物の作品で、相坂さんは異世界のファンタジー。
三樹も新作を始めていて、ジャンルはファンタジーだ。
「相坂さんと真辺君は、最初の展開が遅いと思う。
この場面で説明する情報量が多過ぎる感じがする。
浅野さんは性格とかもあるのかな? その辺は上手にできてると思う」
みんなの作品に対して三樹が気づいたところをアドバイスし、どうしてそう思うのかというところまで解説してくれた。
さすが二作完結させているだけあり、三樹のアドバイスは参考になることばかりだった。
特に俺の場合、どういう部分の描写に力を入れるべきかなど。
「初めて物語を書いてみてどうだった?」
帰りの電車で、三樹が俺に訊いてきた。
「最初の一行目はメチャクチャ苦戦した。いきなりなにを、どこから書けばいいのかが真っ白でなにを書けばいいのかわからなかったよ」
「始めは私もそうだったよ」
「あとはあれかな。投稿するとき、緊張した」
「あ~、わかるよ。私もすごい緊張したのは今でも憶えてるよ」
部活でアドバイスをするのに投稿した状態のほうがいいと三樹に言われ、俺たちは部活を再開する前に投稿をした。
自分が書いた作品がみんなに見られる状態になる。
そう考えると、なんだかものすごく緊張したのだ。
つまらないとか、思われないだろうか?
当然つまらないと感じる人だって必ずいるのは理解している。
むしろ、そういう人のほうが多いんだろうな、とも思っている。
それがわかっていても、緊張した。
「次はなにを書くの? ファンタジーとか?」
「またラブコメにしようかと思ってる。なんとなく書くことには少し慣れたと思う。
でもジャンルが変わると感覚が少し変わるかもしれないから」
「イチャイチャさせたりするの?」
「…………」
なぜか三樹が挑発的な視線を向けてくる。
ラブコメなんだから、そういうシーンがあるのは当然だろ?
当然だよね?
「そういうシーンも入れるとは思う……」
なんとなく言及しづらくて、曖昧な答え方になってしまった。
俺たちは電車を降りて改札口を通る。
ここでお別れだ。俺は自転車だが、三樹は徒歩で数分のところに家がある。
「ねぇ?」
改札を出たところで、三樹が呼ぶ。
三樹の顔はさっきまでとは違っていた。
「ん?」
「部活、楽しい?」
少し強制的な感じもあったのに、なにを今更とも思うけど。
「思っていたよりも楽しんでると思う」
正直な感想だった。感覚では、俺のことは人数合わせのような感覚でいた。
だけど実際小説を書いてみて、また書いてみたいとも感じている。
バイト以外にはなにもなかった俺に、新しい感覚が確かにある。
俺はそれを、悪くないと感じていた。
「そう。じゃぁね」
なんとも素っ気ない返事。
三樹は背中を見せて、肩の上から手だけ振って別れた。
俺はこの前、どうして家に来たのかを訊いてみたいと少し思っていた。
でも、なんか訊けなかった……。
その答えを聞きたくないような気もしていた。
俺は今の俺がよくわからない。
この二年半のことは俺を確実に変えた。
常に一歩引いた状態で観察する癖がついた。
それはいろいろなことに影響しているように思う。
そう……いろいろだ。
少なくとも、もう高校生活ではボッチのままだろう。
これが変わるとも思えない。
俺自身、今更クラスメイトとなにを話せばいいのかもわからない。
そしてそれは、三樹にも当て嵌まる。
三樹はこんな俺を見てどう思っただろうか。
俺は三樹にこんな俺を見られて、惨めさのようなものを感じずにはいられない。
たとえイジメがなくなっても、なかったことにはならないんだ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます