第10話 加害者と被害者
「俺から説明してあげますよ。それを聞いて出ていきたい人は出ていけばいい。
俺は示談なんかしなくたっていいんだ」
「子供のくせに、示談示談うるさいのよ!」
「俺は今まで彼らに絡まれた殆どの内容を音声データ、日記で残してる。
それを見ていた学生だっていくらでもいる。
その中には暴行と呼べるものも当然ある。
俺が被害届を出せば、間違いなく受理されることになる。
そうしたら示談をするか、しないかという流れには必ずなる。
そこで示談できなければお子さんは保護観察では済まず、少年院という選択肢も出てくるかもしれない。
今言ったことにはならないかもしれないけど、なるかもしれない。
学校側は示談をしない生徒に対して、停学処分で済ますことができるかも疑問ですね。
示談をしないということは、社会的に見れば反省していないと見られるはず。
そして俺が被害届を出せば、そいつらは犯罪者だ。
そんな学生を停学だけで終わらせることができるとは到底思えない。
これだけメディアに注目されている中で」
俺は校長たちを一度見てから、再度加害者側へと視線を移した。
「俺は示談しないと言っているわけじゃない。
加害者側であるそちらが示談をしたくないのであれば、出ていってもらって一向に構わない。
好きにしてくれ。ただ一つだけ言わせてもらう。
こっちは被害者で、あんたたちは加害者なんだ。
母さんがあんたたちに文句を言われる筋合いはない」
明確にお互いの立場を突きつけると、そのあと文句が出てくることはなかった。
そして金額の話へと移る。
「いくらなら示談してくれる?」
腹の探り合いのような質問だと思った。
「相場は一〇万~二〇万ということみたいなので、二〇万で示談してもらえるか?」
「二〇万ということは、あなたの息子さんが俺にしたことは悪質ではなかったと考えているということでいいですか?」
「いや……そんなことは、ない」
「三〇万で示談してください」
暴行罪は罰金三〇万円が上限だと記憶している。
そう考えると三〇万円は妥当な金額だと俺は考えた。
だが示談には限度があるわけではない。
母さんに対してのことがあるので、俺は更に上乗せすることにした。
「五〇万で示談してもいい」
「なっ!」
「――!」
「高過ぎよ!」
「これ以上文句を言うなら今すぐ帰れ。言っておくが、お金の交渉をする場じゃない。
俺は示談しなくたっていいんだ。そっちが示談をお願いする立場ってことを忘れるな」
「なぁ! なんでそんな金の話になるんだよ? 謝るから許してくれよ!」
「許せないなら、同じように俺たちを殴ればいいだろ」
学生組が的外れなことを言ってくる。
「俺がお前たちを許すわけがないだろ? 一生お前たちのことを忘れることなんかできはしない。
お前たちとの話はもう終わったから黙ってろ」
学生組をシャットアウトし、その両親たちに視線を移す。
「俺が警察に行けば、そいつらは犯罪者になって退学。
そこで示談できなければ心象が悪くなるのは目に見えてる。
示談しているかしていないかは重要な判断材料になることを考えれば、示談しないなんて選択をするのか?
俺は今後示談に応じるつもりはないからよく考えろ」
結果示談の金額は一律五〇万円ということになり、俺と母さんは弁護士を立てることになった。
示談書の作成など、ちゃんとしておくためだ。
話し合いを終え、俺は母さんとバイト先のカフェに来ていた。
「優也すごいわね。よくあんな交渉ができたと思う」
「なんとか解決したいとは今まで思ってはいたから、準備だけはしてあったからね。
ところで弁護士に依頼するの? 書類だけなら行政書士でもいいんじゃなかったっけ?」
「なぁに? そんなことまで調べたの?」
「まぁ……」
「優也の話だと、中学生の頃もあったでしょ? この機会にそっちも一緒にやっちゃうわ。
そのためには弁護士じゃないと駄目なのよ」
俺は考えていなかったけど、中学の頃のことまで母さんはやってしまうつもりらしい。
まぁでも、そうしておけば今後地元で会うようなことがあっても問題ないと思う。
そんな話をしていると、お店のドアが開いた。
三樹と、そのお母さんである愛理沙さんだ。
今回二人にはお世話になった。解決の切っ掛けを作ってくれなければ、今でも俺の立場は変わっていなかったはずだ。
二人には話し合いがどうだったのかということから、決着の内容まですべてを話した。
二人はイジメという部分を認めない流れだったのを聞いて、同じような顔で憤慨していたのがとても印象的だった。
そして俺は、再度ちゃんとお礼を伝えることにした。
「本当にありがとうございました」
「気にしないでいいのよ。今回のことで私のイメージも爆上がりなんだから!」
「そうなんですか?」
そんな話をしていると、三樹がチャチャを入れてきた。
「そうよ。まるで売名行為みたいな感じでイメージアップしてるわよ」
「ちょっと! 人聞きが悪いこと言わないでくれる? 私はちゃんと優也君のことを考えて動いたわよ? それが世間から見たらイメージアップに繋がっただけよ」
この部分に関しては俺にはわからない。
正直イメージアップの考えが最初からあったのだとしても、俺はそれでもいいと思った。
それでも愛理沙さんがしてくれたことは変わらないし、それは俺にとって確かな助けになったことだ。
身動き取れなくなっていた俺を、助けてくれたことにかわりはないのだから。
そしてそれは、三樹も――。
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