第5話 変わったこと、変わらないこと

 授業をサボって校舎で突っ立ているわけにもいかないので、俺たちはそのまま学校を離れた。

 三樹は当然のように俺の前を歩いて駅へと向かう。

 駅の階段を降りているところで、電車がホームに入ってきたのが見えた。

 俺たちはその電車に乗り込み、イスに座って一息つく。



「三樹、家はどこ?」


「前と一緒」



 前というのは、中学時代という意味だろう。

 ということは、降りる駅もたぶん一緒だ。



「国村から聞いただろ? せっかく帰国したんだから、俺には関わらないほうがいい」


「…………」


「女子のグループならまだ大丈夫だろ。小松たちも女子のグループにまでいかないだろうし」


「解決しようとは思わないの?」


「できるならやってる。数人の行き違いならなんとかなっても、今はグループでの段階になってる。もうそういうタイミングじゃないんだ」


「ねぇ? どっか入れるお店とか近くにない?」


「ん? まぁないこともないけど」


「私まで学校サボっちゃったんだから連れてって」


「……」



 確かに三樹がサボったのは俺のせいではあるのだろう。

 俺とクラスが違えば、三樹は今も授業を受けていたはずだ。

 それは俺にも言えることだと思うけど。

 だけど三樹は、俺を庇ってサボることになったのだ。

 三樹のその気持ちは、ボッチの俺には心に沁みるようなうれしさがあった。


 電車を降りて三樹の前を歩く。行き先はバイト先のカフェ。

 あそこなら高校生が来ることも殆どない。

 三樹と歩くのは久し振りだ。だけどあの頃とは違う。

 着ている制服も違うし、俺たちの関係も違う。


 三樹の歩き方は綺麗だ。モデルのお母さんから姿勢と、歩き方は教わっていたらしい。

 人の印象はとても大事で、それは動作なども含まれる。

 三樹はモデルをやっていたわけではないけど、そういう部分から教育として教わったのだと言っていた。

 それは制服が変わった今も変わらず綺麗だった。



「このカフェ、落ち着いていて雰囲気いいね? こんなお店知らなかった」


「三樹がフランスに行ったあとにできたからな」



 お店のドアを開けて先に入り、後ろ手でドアをおさえて三樹が入るの待つ。

 店長に俺だというのをわかってもらうのにも、先に入るほうがいいだろうと思った。



「あ! 優也くん! 女の子と一緒なんて珍しいわね? 彼女?」


「――……」


「…………」



 心臓がドクンと鳴る。

 そういう関係が過去にあったのは確かだけど、今は違う。

 終わり方があんな形だったから、こんな気持ちになるのだろうか?

 少し後ろめたいような感覚を感じながら、現状を告げた。



世理奈セリナさん、そんなんじゃないですよ。高校のクラスメイトです」


「おっ! 真辺君。そうなのか? そりゃ残念だ。帰りにしては早いね?」


「店長、お疲れさまです。今日はちょっと、サボってしまいまして」


「真辺君にしては珍しいね。それでうちに来るなんてお洒落だな。

 それで? 今日はなにを飲む? そっちの子も真辺君持ちにしとくから、遠慮しなくていいよ」


「俺はキャラメル・マキアートで。三樹はどうする? 飲み物は月二〇〇〇円で俺飲み放題だから、三樹の分も今日はそれでいいって」


「え? そうなの? それすごい羨ましいんだけど。じゃぁ私も同じ物で」



 平日の昼間は、大抵店長と奥さんが二人でカフェを回している。

 店長と奥さんには小学校三年生の子供がいるみたいで、夕方からはバイトが入るようなシフトだ。



「はい。彼女の分はクリームだけ多めにしておいたから」



 店長が淹れてくれたキャラメル・マキアートを受け取り、いつもの席に行こうとしたが止めた。



「三樹、席どこがいい? どこでもこの時間なら問題ないけど」


「いつもどこに座ってるの?」


「あそこ」



 俺がいつも邪魔にならないように座っている席を指差す。



「今日はあそこでいいよ」


「わかった」



 先に三樹を好きな方へ座ってもらい、俺も空いたイスに腰を下ろした。



「ここでバイトしてるの?」


「そうだね」


「Wi-Fiもあるし、いいね。うるさくなさそうだし」


「大学生とかは来るけど殆ど学生は来ないから、へんにうるさくなったりはしないよ」



 少しの間キャラメル・マキアートを楽しんでから、三樹が俺をまっすぐに見て言ってきた。



「今のままでいいの?」


「…………俺一人でどうにかできる段階じゃない。学校側を本気で動かすのも現状だと難しい」


「相談してみないとわからないけど、学校側を動かす案なら一つある」


「どんな?」


「お母さんに相談する。今こういうことって世間も厳しいから、ALISAアリサの娘の学校ってなればたぶん」

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