第4話 いつものこと

 次の日は朝から気分が最悪だった。

 学校でのことが気になってしまい、どうにも気持ちがふさぎ込んでしまう。

 正直母さんが先に家を空けるのをいいことに、休んでしまおうかという考えが出てくる。

 けどそれは中学ではなんとかなっても、高校ではそうもいかない。

 それをやってしまえば進級できなくなってしまう。

 一日二日ならいい。だけどそれで原因がなくなるわけではないのだ。


 俺は時間を調整して、ギリギリの時間に登校した。

 これで朝は絡まれる時間がなくなる。



「なぁ? 遅くねぇ?」



 教室に入ると、小松のグループが俺を見て言ってきた。

 これくらいはなんてことはない。

 これくらい無視することはいつも通りだ。


 向かう先の席には、三樹を囲んだグループが見えた。

 昨日三樹が俺に話しかけてきたのは問題ないようだ。

 転入したばかりで、人間関係がわかっていない状態だったからだろう。


 俺が席に着いたところで、石丸先生が教室に入ってきた。

 みんなが散り散りになって席に着いていく。

 三樹がこっちを見ているような気はしたけど、俺は気づかない振りをした。


 午前の授業が終わりお昼休憩になると、三樹の周囲には人が集まってきていた。

 すぐ隣に女子のグループがいるのは少し落ち着かないが、俺はお弁当をカバンから取り出す。

 サッサとそれを食べ終え、俺はスマホだけ持って場所を移動した。

 いつまでも教室にいては、絡まれることがあるかもしれないからだ。


 中庭へと移動し、スマホで小説投稿サイトを開く。

 これも単なる時間潰しではあったが、いつの間にか日常的なものに変わっていた。

 更新をチェックしていると、優さんという作者のページに更新があった。

 もう少ししたら、新しい連載を始めるという告知だった。

 この作者さんは、少し前に作品を完結させてから少しお休みしていた人だ。


 いつものルーティーンをこなして教室へ戻る。

 三樹の回りには女子のグループの他に、小松と尾池がいるグループもいた。

 俺の席は三樹の隣だ。嫌なイメージしか湧いてこない……。

 とはいえ、もう今さらどこかに行くわけにも行かない。

 スマホを少し弄ってから、しかたなく自分の席に戻る。



「真辺~? お前いつもお昼はボッチでどっか行ってるらしいじゃん? どこ行ってるの?」


「……」


「なぁ~?」



 また机を蹴られた。女子のグループと話していたから、当然女子たちも見てくる。

 だけど今までと違って、その中には三樹もいる。

 恥ずかしさとも違う、悔しさとも違う気がする。

 なにかの重い感情が俺を覆っていく。

 いつものように、すぐ机を直す気になれなかった。

 もう、放っておいてほしい。

 だけどそう都合良くはいかない。



「無視すんなよ」



 今度は太腿の辺りを蹴られた。別に痛くはない。

 大抵こういうのは、見た目ほどそんなに痛くはない。

 直接的に顔を殴られるとかでなければ、さほどどうってことはないのだ。



「ねぇ? なにしてんの?」


「結愛?」



 いつもと違う反応をした女子は三樹だった。

 それに国村も反応していた。



「これっていじめじゃないの?」


「えぇ? 三樹さん、ちょっと話してるだけだよ。人のこと無視するから、ちょっと注意しただけ」



 三樹が俺を見て言ってくる。



「いつからなの?」


「いつだっていいだろ。三樹さんには関係ない」


「三樹さん、今のはコイツが無視したのが悪いよ」



 尾池が間に入ってくる。仲でも取り持っているつもりだろうか。

 少しの間沈黙が流れ、三樹が荷物をまとめだした。



「結愛?」



 国村が不安そうに三樹の名前を呼んだ。他の女子たちも国村と似たような表情。

 それを三樹は無視しして荷物をまとめると、俺のカバンまで一緒に持って俺を引っ張った。



「おい」


「いいからっ!」



 俺の袖を強引に引き、どんどん歩く。

 下駄箱まで来たところで、三樹はやっと止まってくれた。



「これじゃ教室に戻りづらいんだけど?」


「じゃぁ、今日はもういいでしょ?」


「本気か? まだ授業が始まって初日なんだけど?」



 結局そのあと俺たちは学校をサボった。

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