第10話 魔王、女王に説教される
「そこに座りなさい。」
「あ、はい。」
夕飯を食べている時は無言だったんだ。
いや、まぁ何か言われるんだろうと思ってはいたけど、どうにも美月の感情を掴みかねていた。
今日の放課後、珍しくも俺のクラスに来て、教室内をザワつかせ、俺を一睨みした後に凛を連れて行ったから、もう既に色々ばれているのは分かっていた。
どうしてバレたんだ?
美月に知られたくない理由なんて単純で、父さんには留守中面倒事を起こしたり、首を突っ込むなと言われているからだ。
父さんとの約束を破るとどうなる?
決まってる。
母さんと美月からの説教で、オシッコをチビりそうになるに決まってるだろうが!?
あぁもう!
だから秘密裏に動いてたと言うのに!
しかし、今日の美月はどう表現したら良いのか…
怒っている?
うん、それはまぁ間違いないが、その怒りに隠れて他の感情も混じっている様に見える。
「美月?」
「…なんでもないわ。それより、葛城凛と話をしたわ。アンタが彼女を助けたいと言う気持ちは分かるし、それに関しては何も言わない。」
おっと?
どういう事だ?
面倒事に突っ込んで行った自覚はあるし、それに対しての怒りだと思っていたけど、違うのか?
「じゃあ、なんで怒ってんだよ。」
「結月の考えた計画を吐きなさい。」
俺は美月に、今後どうするのかを話して聞かせる。
今回この件に関わっている奴らは、地獄に行きますから勘弁して下さいと言いたくなる程の制裁を考えている。
龍華ちゃんの力を借りる訳だが、それは龍華ちゃんにも利のある話として協力をお願いしているし、光凪に至っては現物を強請られたのだから、これはお互い貸し借りなしでいける。
「こんな所かな?」
一通り話終えると、頭を叩かれた。
「あいたぁ!なんでだよ!」
「…はぁ。それでは助けた事にならないわ。切り離すだけよ。」
「だから切り離さないと助けにならねぇだろ?」
いや、叩かれる意味が分からないんだけど?
なんでそんな残念な奴を見る目で見る?
「今日葛城凛の母親に会って来たわ。」
「はぁ?なんで?」
ちょっと待てよ?
余計な事してないだろうな?
「ねぇ結月、アンタは入学の時に色々やり過ぎて、同級生からは腫れ物を触るような扱いを受けてきたから、今回葛城凛が素直に相談してきたのが嬉しかったのではない?」
…ぐぅ。の音もでない。
流石妹だ。俺の事がよく分かっている。
認めたくはないが、嬉しかったのだ。
相談してくれた事、頼ってくれた事、任せてくれた事が。
だから凛は助けてやりたかった。
「葛城凛を助けたいのなら、母親とお別れをさせてあげなさい。」
「どういう事だ?分かんねぇんだが?」
「母親の方には、私が警察に駆け込まないのは娘が母親に酷い目に合って欲しくないからとお願いされた、そう話してきたわ。」
確かに凛は迷ってた。
それが分からねぇ。そんなクソみたいな親、切り離してやるのが当然だろ?
「結月が言うように、切り離さないといけない事態にはなっているけれど、未だに自分に対する愛情が残っていると知った母親の最後の行動は、葛城凛が前に進む為の原動力になると私は思う。」
「…最悪の行動をとったらどうするんだよ。その母親には、娘に対する愛情なんてこれっぽちも残ってないと思うがな。」
「それでもいいと思うわ。最悪の母親だから、離れないといけなかったと思えばいいし、改心したとしても今更手遅れだけれど、その時は最後には母親らしい姿を見せてくれたと思うでしょ?自分の与り知らない所でいつの間にか終わったら、葛城凛が母親に対しての割り切れない思いを何時までも抱える事になる。それは今後の人生に痼として残ってしまうわ。」
「…助けるなら心も助けろって事か。」
厄介だな。
非常に面倒臭い。
「そうね。とは言え、もう時間は無いわ。結月の計画を軸にして、母親の対応はこちらに任せなさい。それ以外は…」
美月が口の端を上げた。
「なるほど、母親以外は底なし沼に引きずり込んでもいいって事だな?クックック、分かったよ。」
面倒事を美月が引き受けてくれると言うのなら、こちらはやりやすい。
有難く協力してもらう事にした。
「それから、父さん達が早目に帰って来てくれるって!」
「え?…まさか?」
「そうよ?結月が面倒事に首を突っ込んだって報告したら、帰って来てくれるって!」
あぁ、そういう事かよ。
俺が父さんとの約束を守らなくて腹立たしい感情と、でもそのお陰で早く会えるという感情が入り交じった態度だった訳だ。
でもさぁ…
「なぁんで言うんだよぉ〜!もう帰って来るの怖ぇよぉ〜!」
俺が頭を抱えている姿を、美月は笑って見ていた。
◇◇◇◇◇
パンダ急便が荷物を入れ替えに行った日、イースで待っていると、入れ替え作業を終えた凛が来た。
「待っててくれたんですね?!」
「あぁ、お疲れ。無事に終わったのか?」
「はい。なんか男の人と男の人のだって言ってましたけど…結月君って男の人が?」
「ねぇよ!女が好きだぁ!お前のパンツ見てちゃんと反応したって言っただろ!」
「あ…そうでした。」
恥ずかしそうに顔を赤くして、俺の前に座る。
しかし、なんか何時もと様子が違うな。
なんかリラックスしてると言うのか…
大変な時なのにな。
「いらっしゃいませ。」
俺が凛をマジマジと見ていると、店員が注文を取りに来た。
「あ、凛何に…優子ちん?」
なんでまたいるんだよ。
優子ちんはニヤニヤとして俺たちを見ている。
「え?優子ちん暇なの?」
「コラァ!私だって忙しいわよ!この不良どもめ。」
平日だし、明らかにサボってますという俺たちを不良と言うけど、そんなに怒っている訳では無いみたい。
凛はミルクティーを注文する。
「今日が期限だって分かってますけど、明日の昼まで待って貰えませんか?」
「あぁ、いいよ。」
「そうですよね…随分と時間貰ったのに…え?いいんですか?」
「いいよ。何時も連れ出されるのは昼過ぎなんだろ?それ迄に連絡してくれれば。」
俺が頷くとは思っていなかったのだろう。凛は驚いたような声を上げる。
「ありがとうございますぅ。お母さんと話せていなくて。」
「美月が行ったらしいじゃん。説教されたわ。」
「説教ですか?」
「そう。まぁ美月が介入してきたから、母親は俺が考えていたよりもマシな扱いになる。ただ、それは凛との話次第だ。お前の想いで今後が決まる。」
「先ずは話してからと言う事ですね。」
「それ以外の奴らは、叩き潰してやるから、安心して話してこいよ。でも明日は絶対に連れて行かれるなよ?ダメだと思えば直ぐに逃げる事。その時は、そうだな…レストにでも駆け込め。」
「分かりました。」
なんだかな、昨日美月に言われたんだ。
凛の事が気になってるんだろう?と。
アンタはチョロ過ぎると。
中学に入ってから、幼馴染以外の女子とは真面に話す機会もなかったし、二人で出かけるなんてした事もなかったから、とんでもない状況ではあるものの、楽しかったんだ。
俺の周りには強い女が多過ぎて、こんなに弱々しい女がいるなんて思いもしなかったし、イライラもさせられた。
それは庇護欲を掻き立てられる。
欲しくなったんだよな。
こいつが。
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