閑話 凱旋

 約一月半の海外遠征の中、慣れない食事に辟易しながら過ごしたが、漸く帰ることが出来る。


 高校生であることから、夏休みを利用しての遠征だったが、本音を言えば日本に残って遊びたいという気持ちもあった。


 自分で選んだ道ではあるし、この道を選んだ事に後悔はないが、それでも、自分が好きな人の高校最後の夏休み、一緒に居たいと思うのは致し方ない事だ。


 しかし、この遠征に俺は自分の中で一つ、決めている事があった。

 それは…


「わぁ!あ、あの〜、サイン貰えますか?」


「え?あ、いいですよ?」


 はぁ…


 俺は別に有名になりたかった訳では無い。

 帰りの飛行機に乗り、座席に座っていると、横を通り過ぎて行く人達がチラチラと俺を見て行く。居心地悪くなりながらも、時々こうやって話しかけられると応じなければならなくて、益々身を縮こませてしまう。


「一緒に写真撮って貰えますか?」


「…はい。」


 綺麗な人だとは思うが、写真を撮った後に、さりげなく連絡先を渡してくるのはやめて欲しいものだ。


 俺は一人の女を一途に想っているのだから。



 夏休みを少し過ぎてしまい、二学期が始まっている時期になってしまったが、無事に帰国する事が出来た。


 到着口を出ると、沢山のカメラに囲まれ取材を受ける。疲れが残っていると言う事で、ごく短い時間だけ質問に答え、また後日にして欲しいとその場を去る事にした。


 多くの人に握手を求められたり、写真を撮られたりしながら、どうにかタクシーに乗り込んだ。



 時刻はまだ午前中。

 時差ボケが少しばかりあるが、帰国が決まった二日前から、寝る時間の調整をした。


 久しぶりにあいつらにも会いたいし、土産も渡さないといけないな。


 何より、あいつの作った飯が食いたい。


 沢山の荷物を自分の家に置きに行く前に、なにより先に、『Rest feather』に向かうことにした。


 驚かそうと思い、帰国の連絡はしていない。流石に自宅には連絡を入れたが。


 何となく、タクシーで店に横付けするより、歩いて行った方が驚かせるような気がして、レストより随分手前でタクシーを降りる。


 街を歩くと、帰ってきたという実感と安堵、それに今からしようとしている事の準備が、ゆっくりと出来た。


 そうだ、タクシーを降りたのは、本当はまだ心の準備が出来ていないからだ。


 俺はやり遂げた。

 だから、彼女に告白をするつもりだ。


 もう少しで会えると、遠目に店が見えてきたが、店の前で何やら騒ぎが起こっているようだ。


 嫌な予感がする。


 俺は荷物を放り投げ走り出した。


「あ!何時帰って…わぁぁあ!」


 走っていると、恐らくレストに向かっているであろう、幼馴染の光凪がいたから、ついでにかっ攫う。


「光凪!何が起こってる!」


「えぇ!?あの車は…あれは敵だよ。」


 敵?敵ってなんだよ。

 光凪を担いだまま、全力で走る。


 訳が分からないが、敵だというなら好意的な相手ではないのだろう。


 近づいて行くと、その場に俺の知っている奴らがいるようだ。


 そして、それを見た瞬間、俺はブチ切れた。





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