第9話 大丈夫だよ?
龍華さん達が今やっている入れ替え作業は、結月君の思いつきでのイタズラと言うか、嫌がらせと言う事らしい。
「これ買った奴がさ、いざ視てみようとパンツ脱いで箱ティッシュ用意してる所に、男の映像が流れたらと思うと、笑えるじゃん?結月がそんな事言ってたよ。」
本当に馬鹿な奴だよ。と龍華さんは楽しそうに話しながら、結月ウチに欲しいんだよなぁ〜、なんて呟いているのを聞いて、龍華さんは何をやっている人なのかと興味がわいた。
「光凪ちゃんは、小学生ですよね?龍華さんと雛虎さんは、何をしてるんですか?」
結月君の話では、幼馴染が宅急便と一緒に行くから、例の部屋に案内して欲しいと言う事だった。
私と同級生の結月君の幼馴染だから、そんなに年の離れた人ではないと思っていて、それならば力を持っているなんて事、考えてもいなかったけど、目の前にいる二人は、歳は少し上くらいでも、一緒に入って来た作業者の男の人達を使っている。
男の人達は帽子を被っていたから余り気にしていなかったけど、よくよく見れば、お母さんに連れていかれた倉庫にいる男の人達よりも怖い雰囲気を纏っている。
雛虎さんは苦笑いをして、龍華さんに目を向ける。
龍華さんは少し考えるように何も無い場所に視線を彷徨わせ、ポンと手を合わせた。
「何でも屋かな?」
「はぁ、何でも屋ですか?」
若干納得がいかない答えだったけど、龍華さんはそんな私の心情を察したのか、話を逸らすように口を開く。
「あ、それよりさ、これの関係者の事教えて貰える?」
関係者。
そう言われて真っ先に思い浮かべるのはお母さんの顔だった。
「あ、あの…」
私はまだ結月君に返事をしていない。
現状から救い出してくれるという道を示してくれたけど、その結果お母さんは逮捕されるか、二度と会う事は無いという二択。
逮捕されれば、こんな事件は全国的なニュースになり、可哀想な被害者という体で、面白可笑しく何日も、何ヶ月も、マスコミに騒がれる。
その結果、被害者の名前は伏せられるものの、特定されるのは避けられないと言うことを説明された。
そして保護者を失った私は、施設での生活を余儀なくされる。
二度と会えない方法と言うのは教えて貰えなかった。ただ、施設に入ることは無く、一人暮らしをする。保護者はお母さんでも、姿は見せられないと言う。
龍華さん達と一緒に来ている男の人達を見るに、やはり酷い事になるのだろうと想像出来る。
お母さんに会えないのはもう仕方がない。
私もお母さんのやっている事を知ってしまった今となっては、一緒に生活するのは無理だ。
それでも、どうしても、幼い時の優しかったお母さんの姿が頭を過ぎる。
どうなってもいいとは、言えなかった。
私が俯いて口ごもっていると、そっと頭に触れる手の感触があった。
「私の周りにはさ、結構悪そうな奴らが集まってくるんだけどね?君や結月達に近い歳の奴らもいる。そんな奴らがさ、結月には関わりたくないって言ってるんだよね。」
龍華さんが私の頭を撫でながら、そんな事を言う。
私はその言葉に目を瞬かせる。
私が転校してから、クラスの女子から話しかけられた事があった。
それは、この学校に通う為の注意事項みたいな話。
魔王の機嫌を損なわない事。
でも私は、何故結月君が魔王なんて呼ばれているのか、理解出来なかった。
結月君は誰よりも私の話を聞いてくれたし、私の大きな悩みを解決しようとしてくれている。
そんな人が怖がられるなんて、なんだか釈然としなかった。
困惑の目を向けると、龍華さんはニッコリと笑った。
「でもさ、アイツはね、身内には優しいんだよ。」
私は小さく頷いた。
私もいつの間にか、結月君の身の内に入れたのかもしれないと、少し嬉しくなった。
「敵には容赦ないけどね?やり過ぎちゃうけど…でもね、私の所に美月も来たんだよ。」
「あ、はい。私にも会いに来てくれました。」
「じゃあ、大丈夫だよ?」
「それって…?」
「迷う気持ちも分かる。自分の親が絡む話だから。だけど、凛、君が助けを求めないと、結月も助けようがない。私達は君の為じゃなくて、結月の為に動いてるんだから。」
「はいぃ。」
「私は幼馴染を信じてる。結月が行き過ぎたら美月が止めてくれる。君達の学校ではね、魔王を御せるのは女王だけだと、私は思うよ?」
「私達の学校では?」
「あぁ…フフッ。彼らの家族はもっと強力だから。」
「…?」
結月君の家族?
聞いた話では普通の家だと言ってたと思う。
よく分からないけど、龍華さんの幼馴染に対しての揺るぎない信頼を感じ、大丈夫だと言われながら、私は関係者の事を話した。
お母さん、お母さんの彼氏、撮影をしていた三人の男の人、凄く体格のいい二人の男の人。
あと二人、使いっ走りだと言われている人達。
全てを話し終えた時、丁度パンダ急便の作業は終わったようで、皆帰って行った。
帰り際、龍華さんからイースで結月君が待ってると聞いて、私も慌てて支度をし、イースに向かった。
向かう途中、こんな時間にイースにいる結月君が、私と同じように学校を休んだ事に気が付き、申し訳ない気持ちになる。
学校の屋上で偶然会ってから、彼には何の得も無いと言うのに、死のうとしていた私に生きる望みを与えてくれて、まだ全て終わった訳ではないのに、これからもっと酷い事になるかもしれないのに、あの屋上に行く前よりも、笑っていられる時間が出来た。
イースに着いた時、外のテラスでカップに口をつけている結月君が居て、私は自分の現状の酷さを忘れ見蕩れてしまった。
あぁ、そうなんだ。
私は本気でこの人の事を好きになってしまったんだと、暫く冷えていた心が暖かくなるのが嬉しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます