第102話
アルマは無事にカラズと協力関係を結ぶことに成功した。
その過程でアルマは自身がゲルルフの側近組織である《ヤミガラス》に暗殺されかけたこと、そしてゲルルフが悪魔と契約していることがほぼ間違いないことを話し、彼と今後について相談し合った。
「俺が欲しいのは《瓦礫の士》が主体でゲルルフを討伐したというポーズだ。不当な侵略行為であったと主張されて、ハロルドの領地と都市ズリングが戦争にでもなったら最悪だからな」
ゲルルフが悪魔の力を借りて都市ズリングを支配していたことが明かになれば、充分に都市の部外者が彼を討伐するだけの理由にはなる。
だが、問題はその後の都市ズリングの権力争いである。
別にゲルルフの後釜など欲しくはないが、都市ズリングの他の重鎮がアルマの行動を侵略行為と言いがかりを付けてハロルドの領地を攻撃し、それによって支持を得て都市ズリングの覇権を得ようとしてもおかしくはない。
ハロルドは大都市の権力争いに巻き込まれることを警戒していた。
確かに気を付けすぎて悪いものではない。
都市ズリングをまとめて敵に回すのは規模が大きすぎる。
それにアルマも戦争を引き起こすような真似はごめんであるし、戦争だからといって相手都市の民を殺すような覚悟もはっきりいって持ち合わせてはいない。
あくまでもアルマの目的は、自身へ攻撃を行うゲルルフの排除なのだ。
そのためには《瓦礫の士》が主体であったという建前が必要であった。
《瓦礫の士》は元々ゲルルフへの反抗勢力であった上に、都市ズリングの住民である。
彼らが悪魔と契約していた悪徳領主を討ち取って成り代わったとしても、さほど反感を買うことはないだろう。
互いに利のある話であった。
「その点については儂らも願ったり叶ったりではあるが、本当にアルマ殿達だけでゲルルフを討伐するつもりであると? アルマ殿の実力は拝見させていただいた。だが、ゲルルフは、本当に恐ろしい男であるぞ」
「無論、《瓦礫の士》にもできる限りは協力してもらうぜ。まぁ、俺がゲルルフに集中できるように下っ端の相手をしておいて欲しいのと、後はせいぜい混乱した住民達の誘導くらいだがな。ゲルルフについては任せておいてくれ。ちょっとばかり警戒する必要のある相手だとは考えているが、充分に対策は練ってきた。俺が怖いのはゲルルフというより悪魔の技術なわけだが、その辺りの知識にはある程度自信ある」
アルマがカラズへと自信満々に答える。
だが、カラズは眉を顰め、目を細めた。
「何か不安があるか?」
「何故、悪魔との契約は錬金術の禁忌であると語っていたアルマ殿が、悪魔の技術の知識を有しておるのか?」
アルマは誤魔化すように大きな咳払いをした。
「それは主様が、興味本位で悪魔と交信したことがあるから……」
アルマは素早くメイリーの口を塞いだ。
「あ、悪魔の契約者と戦ったことがあるからだ! 余計な勘繰りは止めてもらおうか」
「……まぁ、アルマ殿が儂らに協力してくれるのでさえあれば、わざわざアルマ殿の細かい悪事を追及する理由もないのだが」
カラズがやや小さな声でそう零した。
アルマは反論しようかと思ったが、メイリーの言っていることは実際ほぼ事実であるため、下手に掘り下げても仕方のないことである。
苦笑いを浮かべて誤魔化しておくことにした。
「とにかく、《瓦礫の士》には明日中にできる限りの戦力を集めてもらい、明後日には演説のために表に出てきたゲルルフを攻撃して欲しい。そうだな……従来の《瓦礫の士》の戦力で充分なのか、少々不安だ。明後日に備えてゴーレムを少し用意しておきたいんだが、材料と保管場所を確保しておいてもらえるか?」
《魔法袋》ではゴーレムのような巨大な金属人形を収納しておくことはできない。
ゴーレムに変形させられる分量の《ガムメタル》を持ち歩けていたのは、《ガムメタル》が空気を内部に取り入れて膨張することができる点が大きい。
直前までゴーレムを保管しておく場所が必要であった。
「なんでも言ってくれ。材料も人手も場所も、すぐに用意してみせよう。ただ、問題なのは、ゲルルフにその場所が割れる可能性が大きいことだ。儂らも情報漏洩を抑えようと考えて動いておったが、結局ローゼルの襲撃を受けることになった。急ぎで一箇所に戦力を蓄えようとすれば、隠し通すことはほぼ不可能である。その場所にまた襲撃を受けることになりかねない」
「そこは安心してくれ。また刺客が送られて来ても、俺がどうにか対応してみせる。俺にはメイリーもついてるからな」
名前を呼ばれたメイリーが、満更でもなさそうな様子で胸を張った。
「それは心強いが……ただ、ここまでの事態が起きれば、ゲルルフは次の定期演説に顔を出さないのではないのか? 既にゲルルフはアルマ殿の暗殺のために向けた《ヤミガラス》も、儂の暗殺のために仕向けた《銀人形のローゼル》も失敗している。この上に儂らが戦力を蓄えていると知れば、ゲルルフの奴を相当警戒させることになるはずだ。奴は用心深い男である」
「明後日は必ず表舞台に出てくるさ。奴がどれだけ用心深かろうとも、定期演説の場へは必ず姿を晒すはずだ。それが《支配者の指輪》の制限だからな」
《支配者の指輪》は洗脳に近い、強大な力を有している。
だが、その効果は時間が経てば経つほどに薄れていく。
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《支配者の指輪》[ランク:8]
悪魔の魔力によって変異した、青黒い宝石の付いた指輪。
言葉に魔力を乗せ、聞いた相手の畏怖の感情を掻き立てることができる。
相手によっては、ほぼ初対面であっても自身の言いなりにすることさえ可能である。
この効果は時間経過によって薄れる他、この指輪が破壊されたときに解除される。
この指輪を欲して、悪魔の伝承に縋った権力者は数知れず。
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アルマを警戒して表に姿を晒さなくなれば、ゲルルフはどの道権力者としての地位を失うことになる。
どれだけ危険な状況だとわかっていても、ゲルルフは姿を現さないわけにはいかないのだ。
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