第2 Coronation

あの時私は何でも出来た。頭も良くなかったし運動も出来なかったけど、それでもあの時の私(と言うよりは僕と書いた方がおそらく適切なのだろう)はなんだってできる気がした。世界は魔法に満ちていた。僕が石を家まで蹴って帰れたら良いことが起きたし、てるてる坊主を作った日は雨がすぐに止んだ。魔法だけじゃない、ひみつ道具はあったし、サンタさんは世界中を飛び回っていた。自転車しか無かったけどどこにでも行けた。

あの時の僕はなんでも出来た。王様みたいだった。お子様であったけど。


ところが今はどうだ、あの時とは比べ物にならないほど多くの知識、強い力は手に入れた、目標には届かなかったがそれでも手に入ったのだ。対価は高くついた。世界からあらゆる神秘は奪われた。魔法なんて大したものじゃないし、アニメの中の存在でしか無かったし、サンタさんの招待も知ってしまった。

私は王冠を奪われた。胸を張って戴冠式を迎えたであろう日を思い出せない。自転車に乗れるようになってどこまでも行けるような錯覚を思い出せない。サンタさんの正体が知りたくて頑張って起きていたあの頃を思い出さない(現にこれを執筆している時間には根負けして寝てしまっていたはずである)はるか昔の、無限遠に存在する優しい、私にとってはほとんど唯一と言っていい優しい光だった。届かないが確かにそこにあるって教えてくれてる。今は奴隷だとしても王様だったんだって。


無限遠に存在する概念的街灯を振り返りそれを見つめる、彼岸にて街灯は薄くも確実に私を見つめ返してくれてる。あの頃の僕は許してくれないだろうけど。


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