第3話 オログラ山

 山道はすぐに細くなった。

 大きな岩が露出する斜面や、笹が茂る樹林帯の中の踏み跡を石楠さんが登っていく。

(本当に太郎山?)

 スマホで見た太郎山は人気の山として紹介されていた。それなら道はもっとしっかりしているはず。

(まさか、違う山?)

 不安になった俺はスマホで現在地を調べてみる。が、すでに圏外になっていた。


 ま、いっか。石楠さんはちゃんと下調べしているようだし……。


 要は、突然地図を渡されても現在地が分かるようにしておけばいいんだ。

 俺は沢登りで培ったアンテナをフル稼働させる。


 それにしても天気が悪い。

 ずっとガスっていて、このままでは頂上に着いても景色は全く見えないだろう。

 沢登りみたいにスリルや清涼感が得られるわけじゃないし、石楠さんは一体何が目的なんだ――と思っていたら、山頂に着いた。


「着いたよ! オログラ山」

 オログラ山? なんじゃ、その名前は!?

 石楠さんが指さす木には、山名を記す銘板が貼り付けてあった。


 ――於呂倶羅山!?


 すごい名前だな。

 石楠さんは、何でこんな山を選んだんだろう?


「ちょっとちょっと沢人くん、この銘板を見て何か気付かないの?」

「って、すごい漢字だよね」

「違うよ、その下」

「その下って……」

 そこには標高が記されている。


 ――二〇二〇・四メートル。


「二〇二〇・四メートルだね」

「でしょ! 今年登らないでいつ登るのって感じだよね!」

 ええっ? 今年って……。

 俺はやっと気が付いた。


「二〇二〇じゃん!!」


 満面のしたり顔で、石楠さんはスマホを取り出して俺の近くに寄って来る。

「ほらほら、記念撮影しましょ!」

 俺の二の腕に彼女は肩を寄せ、二人で銘板の前に並ぶ。そして自撮りでパチリ。

「沢人くんのでも撮ろうよ」

 えっ、俺のスマホ?

 俺ので石楠さんを撮ってもいいの? 堂々と? 隠し撮りじゃなくて!?

「いいの?」

「何言ってんの? 今年撮らないで、どうすんのよ」


 むふふふふ、石楠さんとツーショット。

 写真を確認してみると、なかなか綺麗に撮れていた。

(石楠さん、やっぱ可愛いなぁ……)

 俺はといえば、ちょっとデレててだらしないけど。


「SNSに上げたらダメだからね」

「もちろんしないよ」

 クラスメートにバレたら命が危ない。

「じゃあ、お弁当を食べましょ」

 えっ、お弁当もあるの? コンビニでおにぎり買って来ちゃったけど、絶対そっちの方がいい!


 やっぱり来てよかった!

 でもその後で大変な目に遭うことになるとは、この時はまだ知らなかった――

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