第2話 日光の山奥へ
バスが終点に着くと、石楠さんは自分のザックを背負い、地図を片手に舗装道を歩き始めた。
赤を基調としたチェックのシャツに、ストレッチ生地のネイビーのパンツ。靴もちゃんとハイカットのトレッキングシューズを履いている。ただの気まぐれ――では無さそうだ。ちょっと安心する。
「どの山に登るのか、そろそろ教えてくれよ?」
学校にいる時から、彼女は行先を教えてくれなかった。
「それは着いてのお楽しみ。着いたら理由が分かるから」
ニコリと笑って胡麻化さないでくれるかな。許しちゃうけど。
終点のバス停の名前は『光徳牧場』だった。
なら自分で調べてみようとスマホで検索すると、『太郎山』という名前が出てくる。標高二三六五メートル。この場所からだと標高差およそ千メートルで、今は十時だから、お昼過ぎには登れるだろう。
一方、彼女は地図やら写真やらをコピーした資料をたくさん持っていて、それらを駆使して道を歩いていた。
「太郎山か次郎山か知らないけど、クラス一の美少女と一緒なんだから、まあいっか……」
彼女の後姿を眺めながら、俺はドキドキミステリーツアーを楽しもうと考えていた。
が、残念なのはこの天候。
すっかりガスってしまっていて、景色は全く望めない。
(それでも登るんだろうか……)
不可解に思いながら一時間ほど林道を歩いたところで、彼女が立ち止まった。
「ここから山道だよ。ほら写真の通りでしょ?」
どれどれと彼女が手にする写真のコピーを覗き込むと、同じ風景が目の前に広がっている。
「およそ一時間で山頂らしいよ」
そう言うと、彼女は山道を登り始めた。
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