『星条旗よ永遠に』

ネコ エレクトゥス

第1話

 最近暇な時間が増えたのをいいことにアメリカ国歌『星条旗よ永遠に』をギターで弾いていた。これがいい。とにかくいい。メチャクチャいい。飽きずに弾いていた。今のご時世有名スポーツ選手が室内での体の動かし方みたいなのを動画で投稿しているみたいだけど、僕としては『星条旗よ永遠に』を楽器で弾くことをお勧めしたい。ストレス発散間違いなし!

 それで昨日思い出してジミ・ヘンドリクスのウッドストックでの名演『星条旗よ永遠に』を聞き直してみた。奇跡的な一瞬だった。音楽好きには夢のような時間だった。まるで時間が止まったかのように演奏に引き込まれた。


 さて、その『星条旗よ永遠に』なのだが、音楽的にはDを中心とする和音とAを中心とする和音の間を行き来するという非常にシンプルな曲になっている。多くの国歌がそうであるようにアメリカ国歌も軍歌のような軽快なリズムと高揚感がその核となっている。

 ところでこのDを中心とする和音というのは非常に透明感が高く、均衡、整然というイメージを与える和音で、同時に秩序を与える厳しさ、緊張感も備えている。あまねく広がる神の光、といったところか。それを受ける形のAの和音とは5度の関係をなしているのだが、これは音楽ではよくある相性のいい形で、行きつ引かれつの波の上を漂っている感覚。Dの父なる神との関係で言うならば聖母マリアの腕の中で抱かれている感覚とでも表現できるだろうか。

 さて、ここでジミ・ヘンドリクスの名演では様々な不協和音が飛び込んでくる。U2のボノがこんなコメントをしている。

「ジミはヴェトナムを増幅した。」

 砲弾の音、焼け落ちる建物や木々の音。それらをジミはギターで再現して見せる。和音を無視して音が飛び交い、そしてクラシック音楽の世界で言うところの完全5度、不協和音中の不協和音「悪魔の和音」までが登場してくる。地獄絵図そのものと言うべきだろう。そして最後にかすれて聞こえるDの音。希望。たった数分の演奏の中でジミは神の光から悪魔の登場まで表現して見せた。これこそ最高の音楽芸術の一つと言ってもいいのではないか。

 ところで話が飛ぶように思われるかもしれないが、バロック時代の宗教絵画は底辺の地獄世界から最上階の神的世界までを描いている。ジミの演奏を聴いていてこのバロックの宗教絵画を思い出した。勝手な印象と思われるかもしれないが、もしジミが絵を描いていたのならそんな宗教画になったんじゃないかと思う。


 1930年頃の黒人ブルースミュージシャン、目の見えない黒人のガキは楽器でも弾いてろという時代、彼らは『プレイズ ゴッド、アイム サティスファイド』(神を讃えよ、私は満たされております)そんな曲を弾いていた。もしジミがあの若さで死ぬことがなかったら今頃彼は淡々とブルースを弾いていたのではないだろうか。神を讃えよ、私は満たされております、と言って。


 とにかく一度『星条旗よ永遠に』を弾いてみて!聞いてみて!快感。

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『星条旗よ永遠に』 ネコ エレクトゥス @katsumikun

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