第39話 お隣さんと黒猫と、幼女?②
「お風呂ですか?」
「といっても、桶でちょっと洗うだけ。この猫、あんまり綺麗じゃないから、洗おうと思ったんだけど、俺は好かれてないみたいで」
猫は小さな四肢を動かし、シャー、シャーと威嚇を繰り返す。
「ほら、このとおり」
「なるほど」
昨夕からずっとこの調子で、身体を洗おうにも洗えなかった。
宇佐美さんもさっきまでとの態度の違いに、さすがに驚いたらしく。
「では、わたしに任せてください!」
豊かな胸を張って答えた。
調べたところ、幼い猫に入浴はかなりの負荷がかかるらしい。クロは見た感じ、生後半年ほど経っていそうだから少し湯をかけるぐらいは大丈夫だろうが、湯加減やドライなど注意は必要だ。
「なぜタオル一枚?」
「濡れるといけないので」
十数分後。
風呂場に入ると、宇佐美さんがタオルだけを身体に巻いた状態で立っていた。
以前にその布切れの中身まで見てしまったわけだが、隠された状態というのもなかなか。しかも今回は動くたびに、触り心地のよさそうな太ももがちらり、ちらり。
見えそうで見えない。
その境界が胸を高鳴らせた。
「......で、どうしてキミも入るの?」
「ミキの猫ですから」
「あっそ」
浴室にはミキもいて、こちらも宇佐美さんと同じくタオル一枚。
小さいとはいえ、小学生。このぐらいになると男湯でもめったに見ないので、その細さに驚く。なにより手足が長い。今の子は発育がいいというが、それにしても凄い。
自分を兄と呼んでくれる可愛い子だ。
いっしょに猫と戯れるのは嬉しい。
だが、少々冷たい返事になってしまったのは、この時間を使って、宇佐美さんと親しくなりたいという気持ちがあったからである。
残念だが、仕方あるまい。
「さあ、クロちゃん、お湯に入りますよお」
宇佐美さんがぬるま湯を張った風呂桶に、猫を抱えて入れる。
先ほどからみゃお、みゃおと騒いでいたクロ。足先が湯についた途端、その表面を激しく蹴った。
「きゃっ!」
「大丈夫?」
「大丈夫、です」
熱くないですから、と言う宇佐美さん。
しかし、湯が跳ねたタオルはしっとりと濡れ、膨らみに合わせて張りついている。水滴が鎖骨の窪みから谷間に流れ落ちて。
「ゆっくり、ね。クロちゃん」
宇佐美さんの声に、我に返る。
......ついつい見入っていた。
危ない、危ない。
クロは宇佐美さんとミキに宥められながら、ちょっとずつ湯に慣れて。しばらくすると桶の中でされるがまま、二人と遊び、最後は楽しそうにしていた。
ぬるま湯に潜らせたあとは、ドライ。
嫌がらないよう、できるだけ静音、低温・冷風モードがあるドライヤーを用意した。
また暴れるかと思ったが、風呂場で散々騒いだからか、宇佐美さんの膝の上で目を閉じ、気持ちよさそうに風を浴びるクロ。
「意外と大人しいですね」
「宇佐美さんが優しいから」
「きっと綺麗なお姉ちゃんが好きなんです。このお兄ちゃんみたいに」
「バ......っ!」
猫と宇佐美さんを眺めていたミキが、唐突に言う。もちろん俺は慌てた。
「小学生がそんなませたこと言うなよ」
「むう、小学生じゃありません」
すると、ミキは頰をぷくっと膨らませて。
「ミキは中学生です」
「嘘」
「ほんとです」
幼い顔立ち。落ち着きはあるが、身長がそこまで高くないから、勝手に小学生と判断していた。
あのペットへの執着の見せ様。
まさか、中学生だったとは。
てことは俺、中学生のバスタオル姿見ちゃったのかよ......!
「だから、彼氏とか彼女とか、恋も分かります。お兄ちゃんとお姉ちゃんがキ、キスをする関係だということも」
「ミ、ミキちゃん!?」
焦ったのは子どもより、むしろ大人のほうで。お姉ちゃんたちは別にキキキスなんか、と必死に誤魔化す宇佐美さん。
耳まで真っ赤にして、手を顔の前でぶんぶんと振り回す。猫は驚いて、ミキの膝に逃げ込んだ。はたから見たら、認めているも同然で。
したんだよね、とミキはこちらにも視線を送る。
思春期の好奇心は大人が思う以上に怖いというし、このまま宇佐美さんに否定させ続けるのも可哀想そうだ。
「してないよ、キス」
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