第28話 混浴サービス①



宇佐美:おはようございます

    今日もお仕事頑張ってくださいね



 帰宅後、トーク画面を見返す。


 出社途中に届いたメッセージのおかけで、今日は一日、エネルギッシュに働くことができて。あまりの作業スピードに同期の小鳥遊も驚いていた。


 メッセージに添えられた、この腕を上げたうさぎのスタンプも、可愛いなあ。そして、なんといっても......


 宇佐美さんのプロフィール画面を見る。

 真ん中のアイコンがイラストではなく、写真に変わっていた。


 うさぎのクッキーがのったパフェの写真。

 もちろん昨日撮ったものだ。ペンで動きを加え、踊っているように加工してある。


 すぐに変えるなんて、よほど嬉しかったんだな。端に見切れる俺の手が気になるけど。


 スマホを眺め、ニマニマしていると、インターホンが鳴る。



「あれ、ラビ?」



「おっさん、おかえり」



「ただいま、ってどうした?」



 ドアを開けると、ラビが立っていた。

 いつもの金髪ツインテール、ではない。


 胸まである髪は誰かに鷲掴みにされたように乱れて、その前髪はあらぬ方向へ跳ねていた。



「今、起きたの」



「学校はどうした」



「うーん、なくなった?」



「小学生でももっとマシな嘘をつく」



 てへへ、と舌を出すラビ。


 いろいろおふざけが過ぎるやつだが、そこまで不真面目な人間には見えない。おそらく、理由があってのことだろう。



「ね、おっさん。ジュース奢って」



「......ったく、しょうがないな」



 ラビに背中を押されながら、俺はアパート下の自販機に向かう。


 冷たいのが飲みたいと、ラビは水色の缶のサイダーを選択。受け取り口から商品を取り出すと、なにを考えたのか、縦に思いっきり振って、飲み口を俺に向けた。



「うわっ、なにすんだよ」



「おすそわけよ、おすそわけ」



「馬鹿か、お前は」



 俺は思わず声を荒げた。


 普段は大人だから、と抑えているが、今度ばかりは我慢ならなかった。


 部屋着に着替えていたからよかったものの、黒のパーカーもスウェットもしっとり濡れて。サイダーのフルーティな香りが、髪からも漂ってくる。



「お風呂入んないとヤバいんじゃない?」



「......誰のせいだと」



「まあまあ」



 とにかく上がろうよ、と腕を引くラビ。

 よく知りもしない相手に怒鳴られたっていうのに、どうしてそんな平然としていられるんだ。


 怒りを通り越して、疑念すら湧いてくる。

 なにか、よからぬことを考えているのではないかと。


 結論から言うと、アタリだった。

 部屋に戻るなり、ラビは俺の服を脱がしにかかった。



「さあさ、脱いで脱いで」



「お、おい、こら」



 ファスナーに手をかけ、パーカーを素早く脱がす。次はインナーかと構えると、あっさりとスウェットを下ろされて。トランクスを見られ、もう俺の頭は真っ白に。


 しかし、決して攻撃の手を緩めないラビ。

 インナーを脱がそうと、さらに俺に身体を寄せる。



「もう、いい。自分で脱ぐから!」



「なあに、恥ずかしいの?」



「なんとでも言ってくれ」



 俺は洗面台前に逃げ込むと、ラビに見えないよう、インナーとトランクスを脱ぎ、急いで下をタオルで隠した。


 ったく、なんなんだ、あいつは。



「おっさん、脱いだ?」



「脱いだけど、なんでこっち来んの!?」



「そんなに慌てなくても。ラビは入らないから」



 ラビはね、と八重歯を見せる。

 ただ笑っているだけなのに、どうしてこんな悪巧みをしているように感じるんだ。


 それより、風呂場の電気が、ついてる?

 誰もいないはずの浴室から、なぜ水音が?



「じゃあ、いってらっしゃい」



「......へ?」



 背中をドンッと押されて。


 ラビが開けたドアから風呂場に入ると、室内はぽかぽか温かい。しかも、なんか嗅ぎ慣れない甘い匂いがしてるんだが。


 後ろでバタンと閉まるドア。


 駆け寄って開けようとするが、外から全力で引っ張っているのか、なかなか開かない。かなり古いドアため、強く動かせば壊れてしまいそうだ。



「おい、ラビ、開けろ」



「楽しんでね〜」



「おい!」



 浴室に声が反響する。

 背後で小さく震える気配。


 気づいていた。入った瞬間、視界の端に捉えていたのだ。湯を張った浴槽の隅で、縮こまる姿を。



「おかえりなさい」



「......ただいま、宇佐美さん」

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