第21話 辛辣ハンカチJK、再来③



 俺を隠すように、細い腕を目いっぱい伸ばして。膝立ちして、少女と向き合う。


 距離が近いから分かるが、かなり息が上がっている。宇佐美さんの肩は不規則に上下していた。


 というか、どうしてここに......



「なにしようとしてたの?」



「別に、LINE交換しようとしてただけ」



 少女はにやりとして、今度はスマホを宇佐美さんの前で振る。


 むう、と唇を尖らせる宇佐美さん。

 いつもより、子どもっぽい?



「わたしだって、まだ交換してないのに!」



「へえ、なあんだ、その程度の関係」



「その、程度?」



「てっきり親密なのかと思ってたけど、そうでもなかったのね」



 それならラビがもらっちゃおうかなあ、と視線を俺のほうへ。すうっと猫のように目を細めて。


 すっかり感情的になっている宇佐美さんは、眉を上げ、声を荒げた。



「わたし、犬山さんとキ、キスしたもん!」



「へっ!?」



「それに、犬山さんもわたしを好きだって」



「ちょちょ、ちょっと、宇佐美さん!?」



 反応したのは俺のほうだった。

 寝耳に水、藪から棒、青天の霹靂である。


 宇佐美さんと、キス?

 しかも俺が告白した?


 いったい、いつの話だ。



「......そう、ねえね、キスしたんだあ」



 言われた少女も少女で、髪の先をいじりながら、不穏な笑みを浮かべているし。え、なんか俺、睨まれてないか?



「じゃあ、まだチャンスはあるわね」



「チャ、チャンス......?」



「セックスしたわけじゃあるまいし」



「セッ......!?」



「もう子どもじゃないんだから、キスぐらい、なんてことないでしょ。ましてや、好きとか愛してるとか、そんな言葉ひとつ。ラビの美貌を前に、意味を為さない」



「......そ、そんなこと」



 一気に自信をなくす宇佐美さん。


 ......なんの話をしているんだ。

 これは現実か?


 見た目が派手とはいえ、女子高生がキスぐらいとか、セックスとか。宇佐美さんとはまったく異なるタイプの女の子の出現に、目眩がしそうだった。


 この子は、いったい......?



「は、話の途中で悪いんだが、キミは宇佐美さんとどういう間柄なんだ?」



 宇佐美さんの背中から顔を出し、問いかける。少女は見せつけるには少しばかり寂しい胸をふふん、と反らし、



「ラビはねえねの妹よ」



 衝撃の事実を述べたのだった──


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