第17話 ネグリジェを着るのは①
「おはようございます」
「おはよ。あ、そのスカート」
「ふふっ、せっかくなので、着てきました」
土曜日、午前九時。
駅前に、若葉色のスカートを優雅にはためかせながら現れた宇佐美さん。今日は上に白いパフスリーブブラウスを合わせている。
ふと脳裏に浮かぶのは、柔らかそうな肌。
シャツから覗くキャミソール。
スカートが揺れるたびに、昨日の胸の高鳴りが思い出されて。俺は払い退けるよう頭を振った。
「それにしても、どうして駅前に?」
「え?」
「わざわざ待ち合わせなくても、アパートで集合して、車で行くこともできたのに」
「それは、そうですけど。せっかくなら学生らしく、電車とかバスで移動するお出かけもいいかなあって」
......確かに、一度車に慣れると、なかなか電車やバスを使わなくなるからなあ。
それに、と宇佐美さんは続ける。
「車より電車のほうが、犬山さんとの距離が近いじゃないですか」
今日も容赦ない無意識の発言。
なにも返すことができず、俺はにやけた顔を見られないよう駅構内に足を踏み入れた。
四十分くらい揺られただろうか。
ようやく着いたのは、百近いテナントが入る大型ショッピングモール。田舎の盛り場、庶民の味方、唯一のデートスポット。
宇佐美さんは建物を前になぜか躊躇する。
聞けば、あまり来たことがないという。
俺も年に数回しか訪れないので、入ってすぐにあるタッチパネル式の案内を見て、宇佐美さんの目当ての店へと向かった。
着いた場所に、俺は目を疑った。
「なんで、下着ショップ?」
花柄やチェック、ボーダーに総レースと、華やかで彩り豊かな下着が並ぶ、ランジェリーショップ。
刺繍が可愛らしいシースルーや、布面積の少ない扇情的なデザインのパンツに、思わず視線が釘づけになる。
「ルームウェアを買いにきたんですよ」
「ルームウェア?」
「はい、可愛いのがあるんです」
「へ、へえ」
「......もしかして、いやらしいことを考えてましたか?」
宇佐美さんがささやき声で聞いてくる。
俺は首を横に大きく振り、早く行って、ショッピングを楽しんでくるよう促したのだが。
「なに言ってるんですか。犬山さんに見てもらおうと思って来たんです」
いっしょに行きますよ、頰を膨らませる。必死に腕を引く宇佐美さんはどこか楽しげで。俺が抵抗しようともお構いなし。
ついには店員さんにその光景を見られて。どうぞ、ご自由にご覧くださいと言われたものだから、入らざるをえなかった。
こんなおっさんが女子高生、しかも美少女とランジェリーショップに入店。
周りの目がひたすらに怖かった。
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