第15話 最後のお風呂①



 もしも、女友だちだったら。

 いえーい、今日はなに色、と明るく尋ねるだろう。


 もしも、男友だちだったら。

 過ぎたことは忘れようぜ、と何気ない調子で笑いかけるだろう。


 しかし、お隣さんだったら?

 初めてではないとはいえ、知り合ったばかりの女の子のパンツを見てしまったら、いったいどう声をかけるのが正解なのだろうか。


 数多あまたある選択肢の中から俺が選んだのは──



「いい色だね」



「ほんとですか?」



「うん、宇佐美さんによく似合う」



「......嬉しいです」



 喜びに口元を緩めて。

 宇佐美さんは再度身体を回転させた。


 ひらりと揺れる白いフリル。背面まで続く繊細な刺繍といい、ウエスト部分の小さなリボンといい、純朴なイメージの宇佐美さんにぴったりだった。



「そのスカート、さっき届いたの?」



「はい、実家から。若葉色なんて、自分ではなかなか選ばない色だったので、似合うか気になって」



「それで帰ってすぐ着替えてきた、と」



「はい、早く見せたくて」



 迷惑でしたか、と気にする宇佐美さんにその逆だと伝える。新しい服を披露する相手に選んでもらえるなんて、光栄だ。


 くるくる、くるくる。

 宇佐美さんは回ってみせる。


 膝より少し短いスカートがふわりと舞い上がって、細い脚が露わに。日焼けを知らない白い肌が眩しくて、俺は思わず目を逸らした。


 これ以上見ていたら、変な気分になりそうだ。なにか話でもして、気を紛らわせなければ......



「昨日は、申し訳なかった」



「え......あ、は、はい」



「なにも見なかった、ことにはできないけど。許されるなら、許してもらえるなら、なにか詫びをしたい」



「うう、わたしも悪かったのに」



「いや、今回のは圧倒的に俺が悪い」



 確かに、衣服をひっくり返したのは宇佐美さんだ。でもそれをまじまじと、記憶に残るほど見てしまったのは自分。そして、今日も、これからも、ふとしたときにそれを身につけた宇佐美さんを妄想してしまうのも自分だ。


 うーん、としばらく考えたのち、宇佐美さんはゆっくりと口を開いた。



「じゃあ、明日のデート」



「デート?」



「い、いえ、お出かけで、いっしょに甘いものを食べましょう。甘いものはお嫌いですか?」



「いや、好きだけど」



「......よかった」



 パンケーキがいいかな、パフェもいいな。そう迷いながら、宇佐美さんがスカートの裾をバタバタさせる。やけに激しく。


 今、俺の聞き間違いじゃなければ、ふたりで出かけることを、宇佐美さんはデートと表現しなかったか?


 年頃の男女が出かけていれば、そりゃデートだと思われるだろうが、俺と宇佐美さんに限って、それは......



「あんまり揺らしたら中が見えるよ」



「え、あっ!」



「......そんな、驚かなくても」



「すみません、無意識で」



「気をつけないと」



「なんだか変なところを見られてばっかりです。犬山さん、実は変態だったりします?」



「それなら、もっと大胆に覗いてるよ」



 スカートを押さえて、もじもじする。

 宇佐美さんは唇を噛んで、こちらを見た。



「......努力します」



「なにをだよ」



 もしかしたら、宇佐美さんはちょっとだけズレているのかもしれない。


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