第7話 うたた寝女子高生①



 ふわあ、と大あくび。

 夕方インターホンを鳴らした隣の部屋の女子高生は、やけに眠そうだった。



「昨日、眠れなかったのか?」



「課題がなかなか終わらなくて」



「あー、なんか、ごめん」



「どうして謝るんですか?」



「昨日引き止めたから?」



「お風呂だけじゃなく、ご飯までごちそうしてくれたのに、なに言ってるんですか。礼を要求するならまだしも、謝罪だなんて」



 感謝してもしきれませんよ、と笑う宇佐美さん。隙間からちらりと八重歯が覗いて、不覚にもドキッとする。


 感情に気づかれないよう顔を背けると、宇佐美さんが持つ着替えが目についた。



「あれ、なんかいつものパジャマと違うね。オレンジのボーダー、かな。同じ色のフリルもついてるんだ。オシャレだね」



「こ、このフリルはパ、パンツです!」



「へ、あ、そそそうなのか」



 申し訳ない、と謝る。

 宇佐美さんは顔を真っ赤にして、着替えの隙間に急いで下着を隠した。それから、こほんと咳払い。



「パジャマは昨日洗濯してしまったので、違うのを持ってきたんです」



 俯きがちに言う宇佐美さんは、こちらがにやけてしまうほど可愛くて。おまけに、たった今、これから穿くパンツの色まで知ってしまった。


 妄想が捗らないわけがない。



「とりあえず、どうぞ」



 俺は誤魔化すようにして、宇佐美さんを中に入れた。



「帰ってきたばかりですか?」



「ん、ああ、よく分かったな」



「カバンが置いてあるので」



 視線の先には黒い仕事用のカバン。

 帰ってきてすぐ宇佐美さんが来たので、玄関の上がり口に置いて対応したのだ。


 今日は早めに出勤して、仕事をとにかく急いで終わらせて、それから、車をがんがん飛ばして帰ってきた。


 待たせることなく迎えられてよかったと安堵したのだが。もちろん宇佐美さんはそんな苦労を知るよしもなく。


 ちゃんと片づけないとダメですよ、とカバンを部屋まで運んでくれた。


 いい嫁さんになりそうだな。

 そんな時代錯誤な考えに浸っていると。



「お疲れでしたら、またお背中流しましょうか?」



 なんてことを軽く言う。


 悪気はない。

 悪気がないから、余計に悪い。


 少しは困らせてやろうかと、俺は朗らかに、今度は裸の付き合いといこう、と返す。


 てっきり変態だ、セクハラだと怒られるかと思ったが、宇佐美さんはなぜかまんざらでもない様子で。



「頑張ります」



 着替えをぎゅうと抱き締めた。

 心なしか、その目が輝いているような。



「いや、冗談だよ」



 俺は慌てて取り下げた。


 露骨に落ち込む宇佐美さん。

 焦らされたのはやはり俺のほうで。


 これは、もしかしなくとも、彼女のほうが一枚上手かもしれないと思わされるのだった。


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