第6話 〇〇ステーキの蒸し〇〇添え②
「宇佐美さん、そんなに、動かれたら」
「出ちゃいそう、ですか?」
「うん、もうヤバい」
「じゃあ、ゆっくり、しますね」
「ああ、頼む」
宇佐美さんが腰をくねらせて。
おもむろにフライパンを振る。
中の具材は綺麗に弧を描いて、着地。米粒ひとつひとつが卵にコーティングされ、パラパラとしていて、いい出来だった。
買い物から帰ってきた俺と宇佐美さんは、早速夕飯づくりに取りかかった。
今日のメニューは餃子に麻婆豆腐、炒飯。お手軽中華三点セットだ。
麻婆豆腐はパパッとできるし、餃子は焼くだけ。あとは宇佐美さんが炒飯を引き受けてくれたので、見ていたのだが。これがなかなかに怖い。
フライパンを中身ごと飛ばしそうな勢いで振り回す宇佐美さん。勇む馬を宥めるように、俺はさりげなく言葉をかける。
「美味しそうですね」
「そうだな」
その甲斐あって、無事完成。
テーブルに皿を並べると、ふたりで早めの夕飯をとることにした。
どの品もちょっとずつ多めにつくったのだが、宇佐美さんはぱくぱく食べて、あっという間に皿は空になっていく。
予想以上に、腹が減っていたらしい。
「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
結局ほとんど宇佐美さんが食べる形で食事を終え、すぐに風呂に入るのもなんだから、とテレビでも見て食休みをする流れに。
「そういえば」
画面には身体を張って笑いをとる芸人。
たいして面白くもないなと思っていると、宇佐美さんも同じ感想をもったのか、顔をこちらに向けた。
「犬山さん、昨日自分のことをおっさんって言ってましたけど、いったいおいくつなんですか?」
そういえば、そんな発言したような。
どこで言ったんだっけ?
ああ、風呂場で......と、いかんいかん。
うっかり昨日のことを思い出しそうになり、俺は慌てて自分の年齢を答えた。
「なんだあ、その歳じゃ、全然おっさんじゃないですよ」
「いや、おっさんらしい。少なくとも、女子高生にとっては。以前、目の前の女の子がハンカチを落としたんで、拾って渡したら......」
「渡したら?」
「触んないでよ、おっさんって一言」
「うわあ、辛辣」
「正直、傷ついた」
そういう高校生いますよね、と俺を気遣う宇佐美さん。
そういえば、あのときのハンカチの持ち主も宇佐美さん並み、とはいかずとも、なかなか可愛かったような。だから、余計にショックだったんだよな。
「あ、そろそろ、風呂入ってきたら?」
番組が切り替わって、ずいぶん遅い時間になっていたことに気づく。課題も残っていると言っていたし、早く風呂に入れて、部屋に帰さなければ。
宇佐美さんはちょっとだけ名残惜しそうに俺を見て。それから、促されるまま、着替えを持って立ち上がった。
戸を引き、キッチンのほうを向きながら、ポソっと呟く。
「わたしは、犬山さん、素敵だと思います」
急いで去っていった宇佐美さんだったが、その耳先が赤くなっていたのを、俺は見逃さなかった。
「な......っ」
真に受けてはいけない。
女子高生の、ただの戯れだ。
そう分かってはいたが。
顔がかあっと熱くなる。
心が勝手に浮き立つ。
もし、本気でそう言っているなら。
いや、そう思っていてほしい。
猛烈に願ってしまうほど、宇佐美さんの言葉の力は偉大だった。あれは、反則だ。
「女子高生って、怖え」
──女子高生はお嫌いですか?
今なら、答えに少し迷うかもしれない。
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